覚醒

部屋の前まで来ると、猛は携帯電話を取り出した。携帯のカメラを部屋に向ける。画面には、サーモグラフィーが映し出されていた。人型の熱源が四つ。一人は部屋の中央に座っているが、他の三人は立った状態で部屋に散らばっている。念のため他の部屋も確かめたが、熱反応があるのはこの部屋だけだ。

「いいか。座っている奴が多分親玉だ。俺がまず突入して親玉を拘束する。お前は俺が牽制して動けなくしている間に、結束バンドで残りを後ろ手に縛り上げろ」

猛は携帯電話を仕舞い、代わりにコインの様な物を取り出した。扉に貼り付ける。

「これは消音器(サウンドキャンセラー)だ。この扉が発する音は全てキャンセルしてくれる」

ドアキーを認証機に差し込む。扉に押し当てた手から、(かんぬき)が外れる感覚がわってきた。音はしない。キャンセラーが正常に動作している。猛がドアを開け、部屋の中へと進み、陰から部屋の中を確認する。サーモグラフィー通りの人数だ。

猛はいきなり部屋に飛び込んで行った。

驚いた男達が振り向き、銃を抜く。立っていた男達は、侵入者に気付いた瞬間に銃を抜いた。見張りには、鍵を使わずインターホンを鳴らせと言ってあった。無断で入って来る者がいたら、否応なく発砲すると決めていた。

猛に向かい銃が火を噴く。しかし、彼の動きの方が早かった。壁が銃弾に砕け散る。猛の視界に、ソファーに座る男の姿が映った。怯えた表情まではっきり確認出来た。床を一回転してすぐに男の背後に回り、片腕で座る男の首を締め上げ、男を盾にした形で他の三者に銃を向ける。

「動くな!」

猛と三人は睨み合った。

しまった。

猛は三人の目を見た瞬間に悟った。この男達は、目的を完遂するためなら拘束しているこの男ごと俺を撃つ。仲間が他に一人しかいない事に気付かれる前に、どうにかしなければ。

しかし、猛が見つめる男達の眼は急に瞳が反転して白目を剝き、三人は同時に床に沈んだ。崩れ落ちる男達の背後から、女の姿が現れた。猛が拘束した男は脱力し、項垂(うなだ)れた。