その後、男大迹は母の振媛をはじめ、乳母の美沙目(ミサメ)や輿入れ以来仕えている坂井致(サカイノチ)(フク)に見守られながら、すくすくと育ってきている。彦主人王も、男大迹のあどけない仕草の中に時として非凡なところを認め、このまま成長を遂げれば自分の後を継ぐ者にしたいと望んでいた。

そうして男大迹が三歳を迎えた秋、彦主人王が突然の病を得て倒れる。容態は深刻で高島の寝所に臥せったままである。振媛は側を離れず看病し、男大迹も横に控えている。数日たって、彦主人王は自身の最期が近いのを悟り、振媛に顔を向けて静かに話し始めた。

「男大迹のことは後を頼むぞ。この子を産んだとき、そなたは苦しみで気を失っており、その後も臥せっていて覚えがないと思うが、実は三つ子であったゆえあれほどの難産であったのだ。男大迹は幸いにして元気に産まれたが、兄の二人は憐れにも育てるのに覚束ない態で、残念ではあったが命を保つことがかなわず密かに葬るに至った。全てはそなたの気持ちを慮って今まで隠していた。許せよ、許せ

」と細い声で打ち明けると、力なく眼を閉じた。

衝撃的な話を振媛は息をつめて聴くや、しばらくは胸の震えが収まらず涙があふれてきた。それでもか細い体つきに似合わず気丈な振媛は、口を引き締めて涙をぬぐい、亡くした二人のことは不憫で身が引き千切られるように辛いが胸の奥に閉じ込めようと決心した。

そして、生かされた男大迹を見つめ(シカ)と抱きしめた。男大迹は訳が分からず小さく歓声を上げる。明くる朝、その後意識を戻すことなく、彦主人王は息を引き取った。振媛はもう一度男大迹を抱きしめ、この子に数奇な運命を感じ、たくましく育てると誓った。

〈男大迹は、はからずも二人の兄の血肉を分けもらい生を受けた。そしてその命までも……。この子はその見返りに、とてつもなく過酷な試練を背負って生きていかなければならぬ定めとともに産まれてきたのか。おのれに責のない償いを果たしながら……。それを乗り越えて強く生きねばならぬこの子を、我れが確と育てねばならぬ〉

と、我が子の行く末を案じた。