【前回の記事を読む】天候が急変!荒波で船は揺れ、馬が海に引き込まれるのを見て……

後に倭の大王となる男大迹

嵐はやんだが船は東に流され、伊根にも宮津にも寄れず、一昼夜、右舷の遠くに陸地を見定めながら漕ぎ続け、やっと若狭湾の半ばにある小浜に着くことができた。小浜で疲れ切った体を癒すために二日を過ごし、その後は特に難もなく角鹿に到着することができた。

金海を出航してから三十五日の航海だった。

安宅百魚が角鹿で下船する者や荷下ろしの指図を終えて、男大迹に話しかけた。

「太杜さま、持衰への罰はいかほどに?」と尋ねた。

男大迹は親指と人差し指の腹で鼻先をつまんでしばし考えていたが、「百魚、この度に失ったものは彼の者の馬だけだ。罰はそれでいいだろう」と返した。

百魚は何か言いかけたが口をつぐんだ。

鼻をつまむのは、男大迹が何かを思案するときなどによく見せる彼の癖である。南に向かう道の角に馬飼いの者たちが佇んでいた。男大迹は近づき鵜野真武に問うた。

「この先、安羅子は大丈夫か?」 

「はい、ありがとうございます。馬の背で休ませながらゆるりと帰ることにします」

安羅子は男大迹に目を合わせたがまだ立てず座り込んだままでいる。

 

「安羅子よ。辛い旅をよく耐えたな。馬のことは申し訳なく思っている。これは我が心だ」と詫びながら、細い皮ひもを通した碧色の勾玉を一つ首から外し差し出した。