狢は少し前、土壁に嵌まった分厚い木のドアから入ってきた。今そのドアは跡形もなく消え、壁には紅茶色の毛におおわれた一対の耳があるだけだ。《入り口は出口ではない》ということが狢にははっきりとわかった。「ナンシー、出口はどこ?」それを聞くとナンシーは更に目を細めて言った。「あなた心配性なのね、狢。大丈夫、そのうちわかるわ」狢がなおも丸い目で見つめていると、ナンシーは仕方がないというように目を伏せた。「…
[連載]モータル
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小説『モータル』【第7回】伊藤 美樹
一人の老紳士が石の砦の番をしているのはカトマンザの闇の奥に広がる……森?
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小説『モータル』【第6回】伊藤 美樹
目的地にたどり着き、やっと人心地ついた狢。ふと静まり返った暗闇を見つけ…
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小説『モータル』【第5回】伊藤 美樹
「お父さん?」心細くて何度も呼んだ。「すずらん」が土手一面に咲き誇っていた
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小説『モータル』【第4回】伊藤 美樹
これは夢?それとも現実?何度も夢で見た光景が目の前に広がり…
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小説『モータル』【第3回】伊藤 美樹
入口はあっても出口はない。出口はないが終わりはある愛の部屋「カトマンザ」
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小説『モータル』【第2回】伊藤 美樹
「お父さん!」大きな目に涙がふくれ上がり、長いまつ毛を濡らした9歳の少女
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小説『モータル』【新連載】伊藤 美樹
朝は短く昼はない、大半が夜。仕組みや構造が現実の世界とは異なるカトマンザ