この感覚と夢は、現実へと近づいていくようで、その瞬間ひこうき雲を思った。僕は、この不思議な夢を振り払おうと、空を見上げた。すると、ひこうき雲が見えた。思ったことと実際の風景とが一致したときの何とも言えない感覚が僕を支配した。

あの、ひこうき雲の先にあるひこうきは、どこへ行くのだろう。白い一本の線が、スカイブルーの空を横切っていく。よほど高度が高いのだろう、スカイブルーというよりロイヤルブルーだ。ロイヤルブルーと、ひこうき雲が描く一本のホワイトのコントラストが美しく、キレイで、そして切ない。

──コバルトブルー。

思わず僕はつぶやいた。そうだ、スカイブルー、ロイヤルブルーではなく、コバルトブルーだ。コバルトブルーの中を引き裂いていく一本の白い線を見ていると、なぜかある感情が湧いてくる。

この感情は、いったい、どこからくるのか。恋をしたときの切なさか、大切な人を失ったときの切なさか。将来についての切なさか。

僕は夢を見た。その夢から逃れたくて目を覚ました。その夢を忘れ去りたくて空を見上げた。頭上を横切るひこうき雲が見えた瞬間に湧き起こった感情に戸惑っている。そっと、深呼吸してみる。

──うん、生きている。

生きるとは、こういうことか。呼吸をする。呼吸をするたびに生きている実感を得られる。

生きている、生きていると思っているのに、後から、自分の頭の中が暴れだしては、静まり、平和になる。動と静が絶え間なく繰り返す。狂おしい感情が頭を駆けめぐる。誰かが僕の頭を掴み、引きずり回している。

いやだ、静かにしてくれ、僕を放っておいてくれ。誰か、僕と話をしてください。僕を一人にしないでください。誰だ、僕を夜ごと苦しめるのは誰だ。そして、静謐な時間がやってくる。

感情というものは、日本に四季があるように、春、夏、秋、冬があるように、暦のように移り変わる。地殻変動により、気候も異変を起こすが、人間の気持ち、感情というものも、時には、異変を起こす。変わらないのは、旧暦か。

朝日は東から昇り、西に陽が沈む。夜になれば、空を見上げると、月や星が見える。朝になれば、夜明け前が、一番暗く、東の空から、一筋の光が射す。季節が変わり、時間が変わり、人の情けや、気持ちも変わる。

僕は、僕自身の感情の起伏が激しいのはわかっていたが、それを抑えるすべは、なかなか見つけられない。めぐりくる季節のように落ち着いてくれ。朝と夜の訪れのように規則正しくあってくれ。そう願っても、感情の起伏は突如訪れ、頭の中を駆けめぐっては消えていく。静と動の繰り返しに、僕は夢の中でまで追いかけ回されている。

一筋の光を見つけることができたならば、希望へと変わり、生きる勇気が芽生える。そのために僕は、いつも、季節をめでている。