フロント係、アルベール

まだタクシーまで一時間以上はある。ちょっと散歩に出て、パリの夕方の冷たい風に吹かれたい。狭いフロントカウンター前の椅子もちょっと息苦しくなってきたところだった。

ホテルからサン・ジェルマン大通りと反対方向のモンパルナス方面へ歩いてみる。迷うといけないので、もう大通りからは外れないで歩くことにした。モンパルナスは素敵な観光地であり、TGVも通り、モンパルナスタワーもあるが、その間は特に目立った様子はなかった。

十五分くらいぶらぶらしたのだろうか。ホテルへ引き返すと、その間にフロント係が先ほどの女性から男性に代わっていた。その男性スタッフはおととい、私を誘ってきたあのおじちゃまだった。

私が帰ると、タクシー待ちかと確認を取る。それから私が暇だと悟るといろいろおしゃべりをしてくれた。自分は日本に行ったことがあり、奥さんと日本で銀座や浅草、秋葉原を訪れたことを楽しそうに英語で語り、スマホで写真も見せてくれた。

「なぜ、秋葉原がおもしろいの?」と不思議がったら、「あんなに電器屋さんばかり集まっている都市は他にはない」とのことだった。

それから私が一から十まではフランス語で言えることを話すと、十一はounz(オーンズ)と教えてくれた。発音を直され怪しい鼻濁音を何回か練習させられた。

さらに「日本語で十一は何というのか」と聞くので、すぐに「ジュウイチ」と言わずにいたら「君は日本人なのに日本語が話せないの!」と大笑いされた。つい、職業柄、解説をも考えてしまうので、十と一を説明しようとして間があいてしまったのだった。

私は紙とペンを借りて、十と一を書き、ジュウ+イチ=ジュウイチだということを伝えた。塾講師であるから紙とペンさえあれば、教えるのはお手の物だった。もっとも、彼はそこまで望んではいなかったようだったが。

彼は「今度いつ来る?」と質問する。私が考えていると「来年?」と言う。「そうね」と私が答える。

ほら、普通は来年って言うのよ。リヤードは「来年だって!? 来月じゃないの!?」って私に叫んでいたけれど。