第一章【異変】

2011年(平成23年)3月11日、日本周辺における観測史上最大を記録した大地震が東日本を襲った。この地震によって東北地方沿岸部に大津波が押し寄せ、壊滅的な被害をもたらした。この地震災害は後に東日本大震災と呼ばれることとなる。

この奇妙な出来事はその大地震が引き金となって始まることとなる。場所は岩手県南西部の山あいにある小さな町からであった。近くには奥州藤原氏の栄華が偲ばれる、金色堂(こんじきどう)で有名な中尊寺(ちゅうそんじ)を中心とした世界文化遺産が位置しており、それとともに景勝地で名高い舟下りのできる猊鼻渓猊鼻渓(げいびけい)がその町にはあった。そのせいもあってか通年大勢の観光客が訪れている。

のどかで小さな町とはいえコンビニも病院もあるし、学校も中学までならあり、さして不自由もなく人々はごく普通の暮らしをしていた。そんな町の片隅に、その年に高校を卒業し、東京の大学に進学の決まっていた少女がいた。名前は天見明日美、この奇妙な物語の主人公となる人物である。

長く黒いストレートヘアに精悍な顔立ちで運動神経抜群、頭脳明晰。しかしながら、自由奔放天真爛漫、加えて勝ち気な性格とひょうきんな一面を持ち合わせていた。おまけに言葉づかいが、ややではあるがよろしくない。そのためかボーイフレンドは多数いたものの、彼氏と呼べる者は現在に至るまでいない。その上に身近に起きる出来事と、他人の心を読み取ることのできる不思議な能力の保持者でもあった。

小学4年生の頃、明日美が学校の行事で遠足に行った時のこと、帰る途中、晴れの予報にもかかわらず突然の激しい雷雨に見舞われた。付近には雨宿りする建物もなく、ほかの子どもたちはずぶ濡れ状態で、目の当たりにした落雷への恐怖もあり、大泣きしながら帰ってくることになってしまった。結局のところ学校に着いた頃にはもうすでに雨もやみ日が射していたのだが……。

どうすることもできない不運な経緯をたどり、親の迎えが来るまでの間、子どもたちは体温維持のために、体育館を走り回らされていた。そうした混乱の渦中に明日美は全く衣服が濡れていない状態で、従姉妹の明日香とともにひょっこりと帰って来たものだから、みんなが驚いてどこで何をしていたんだとちょっとした騒動になってしまった。

そこで雷雨に見舞われる状況が予見できていて、先生の目を盗んで公園内の東屋で雨宿りをしていたのだと答えるとさらに驚かれ、それ以来不思議の国の明日美ちゃん、明日香ちゃんと呼ばれるようになっていたのだった。

そのニックネームが嫌で、当然のことながら高学年になるにつれてその能力を隠すようになっていったのだった。自分に不都合な場面が予想された時にはさり気なくその場から離脱したりして、能力者であるが故のチョットした苦労があったのだ。

高校にもなると男女の密事を含め人間関係は、心が読める分さらに複雑さを増し、明日美でもその図式を紙に書いてみないことには理解が難しい。何か関係を円滑にするいい法則でも見つからないものかと、図式を見つめいろいろ模索したりもするが、結局は飽きてしまい、テレビのお笑い番組を見て爆笑してしまっている。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『魏志倭人外伝』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。