いつしか朝方の雨は上がったようだ。サン・シュルピス界隈を楽しんでホテルに帰ると、ラテン系の女性がフロントを担当していた。

私は人恋しくなっていたのか、異国の地に慣れてきたのか、彼女に「今日は日曜日だから、どこも休みだったけれどマルシェは開いていたのよ」と言うと、夕方から営業するレストランもあると言う。

「レストランで?」と確認すると、全部が全部ではないけれど、夕方から営業する店はあるとのことだ。私は彼女の言葉を聞いて祈るような気持ちだった。どうか、彼のレストランがオープンしていますように。

彼から連絡はなくかなりの不安を抱えたまま、夕方午後五時に私はサン・ジェルマン・デ・プレの彼のレストランへ向かった。あ、やっている! 見間違えじゃないわ。あれはたしかにリヤードの店よ。

私の足は自然と駆け寄っていた。嬉しさで店に入ろうとすると、店内からいつもの若いスタッフが私を目ざとく見つけて「入っちゃダメ」の仕草をしている。いつになく険しい表情だ。

どういうこと? どうしてだめなの? 彼がいないの? それにしては態度が冷たい。いつも温かく人懐っこくて、そんな人じゃないのに。どうして。昨夜、私が彼と出かけたから? なれなれしく入るなということ? いろいろ理由は考えられたが、どれも納得のいくものではなかった。

私が日本人だから。ここはヨーロッパだから。

そのときの雰囲気に圧倒されて、私は逃げるようにレストランから離れた。

ブーツ底たちまち冷ゆる石畳

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『Red Vanilla』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。