1.白血球遊走能を高め、局所感染防御能作用を示す。

今回の症例検討は痔核(いわゆるイボ痔)の患者さんでしたが、痔には痔核、裂肛、痔瘻の3種類があります。いずれも炎症性であり、痔瘻は化膿を伴う感染症にもなるので一般用医薬品の範疇外になります。いずれにせよ、もともと炎症が存在しているので、炎症性細胞やさまざまなサイトカインが周辺に存在している状況と言えます。

大腸菌死菌浮遊液は既に感染力や病原性を失った大腸菌の残骸ですが、生体にとっては異物であることには違いありません。痔周辺に塗布され組織内に浸潤してきた大腸菌死菌浮遊液は、痔周辺に集まっていた炎症性細胞によって異物として認識され、白血球の遊走性を促す物質をさらに放出するはずです。

すると生体防御の突撃隊である好中球が最初に塗布された周辺に集まり、大腸菌死菌残骸を貪食するでしょう。さらに好中球より遅れて、血液中の単球が組織に入り込みマクロファージへと分化し、大腸菌死菌残骸を貪食しつつ免疫反応を強化します。大腸菌死菌残骸を貪食しにきた彼らは、痔の炎症によって侵入してきた感染症の原因菌も積極的に貪食することでしょう。

さらに好中球やマクロファージから分泌されるさまざまなサイトカインが、周辺の炎症組織に基本的に好影響に作用し、かくして痔周辺の感染防御能は格段にアップするでしょう。大腸菌死菌浮遊液自体の直接的な作用ではなく、生体本来の防御能の増幅をもたらすという作用といえます。言い換えると弱毒化生ワクチンのようなイメージでしょうか?

2.肉芽形成促進作用により創傷治癒を促進する。

この作用も、大腸菌死菌の残骸が直接肉芽形成促進作用を持っているとは考えづらく、死菌の残骸が他の因子に働きかけて肉芽形成を促すと考えた方がよさそうです。肉芽形成で最も重要となる細胞因子は、マクロファージになると思われます。血中細胞成分の一つであった単球が組織に入りマクロファージに分化する際には、炎症細胞等から分泌されたサイトカインの働きが必要になります。

サイトカインの種類によってマクロファージは炎症をより悪化させるM1マクロファージや組織再生と治癒を促進するM2マクロファージの少なくとも2系統に分化します)。このM2マクロファージが優勢に作用すると、肉芽形成促進により痔で傷ついた組織の修復が促進されると考えられます。

さらにマクロファージが直接肉芽形成に関与するのではなく、マクロファージから産生される増殖因子が線維芽細胞を増殖させて、それが肉芽形成に関与するとされています。肺疾患の一つ肉芽腫性肺疾患の報告では、肉芽形成の悪影響の原因サイトカインとして紹介されていますが、創傷部位の肉芽形成にも一役買っていると思われるサイトカインを下記に紹介しておきます。

肉芽腫形成と肉芽腫維持:TNFα(癌壊死因子α)、インターロイキン−1

肉芽腫の維持:MIF(マクロファージ遊走阻止因子)

肉芽腫の壊死阻止:インターフェロンγ

肉芽腫の増大:プロスタグランジンE2α

③まとめ

各薬剤の添付文書やインタビューフォームでの機序説明では、単に白血球が関与して感染防御や肉芽形成促進としかありませんでしたが、白血球とは好中球のことであり、単球から分化したマクロファージのことのようでした。中でもマクロファージの役割が多様で、重要な位置を占めているのではないかと思わせました。しかし、仕方のないこととはいえ、死菌という死の言葉自体が治療薬のイメージとしてはふさわしくないなあという感想を持ちました(大腸菌残渣ではいかがでしょう?)。