第一章 決算書(財務諸表)から、キャッシュの実像を知る

※「利益」と「キャッシュ」は別モノ

☆決算書(財務諸表)の見方~キャッシュはB/Sで動いている~

Q.『うちの会社は黒字だ! 毎期利益を出している!』と社長が言うけど、時々現金が不足して、あわてて金融機関から借入しているのはなぜでしょうか? 利益が出ているなら、現金もあるのでは?

A.「利益」とは、P/L(損益計算書)で計算された「期中に該当する分の収支が黒字の場合の結果」ですが、これは言わば「税金を計算するための書類」であり、現金の増減にはあまり関係がありません。

P/Lの利益と、実際の現金の「違い」を理解するポイントとして、具体的な例を四つ挙げて説明します。

1.入金・出金タイミングの「月ズレ」

一つ目の例として、売掛金・買掛金等の、現金入金・現金支払の「月ズレ」による影響があります。売上も、支出(仕入や経費払い)も、P/L上は「発生月」に計上しますが、売掛金・買掛金等により、実際の現金移動(B/S)は、「月ズレ」(決算書では「年ズレ」)することがほとんどだからです。

月次の資金繰りでは、月の中旬頃までに「月次試算表」を作成して、売掛金・買掛金の残高を見ると、当月末の入金予定・出金予定が分かります。現金売上入金と、売掛金入金の割合などを把握しましょう。

「売上原価」は、「仕入の支払額」ではない

二つ目の例として、大量の仕入をして現金を支払っても、売れ残って期末にたくさん在庫を抱えた場合、P/Lで計上するのは「期中に売れた分の在庫価格」のみで、売れ残り在庫はB/Sの棚卸資産で計上します。

つまり「仕入の出金」>「売上原価」になる、ということです。そう、「仕入支払額」とP/Lの「売上原価」とは一致しないのです。いわゆる「決算書」のP/Lで「当期仕入額」が表示されていない場合は、「試算表」で当期の仕入支払額を確認しましょう。

Q.決算書を見ても分からないのですか?

A.P/Lではなく、B/Sの「棚卸資産」が前期より増えている場合、「仕入が売れ残った」と想像することはできます。また仮に粉飾決算で期末在庫額を高く見積もると、売上原価が低くなる(P/L売上総利益が多くなる)ので、実際の仕入支払額と売上原価に差がある場合、注意が必要な場面もあります。

なお、期中の「売上原価」の場合、月次の試算表では「実地棚卸」を行っておらず、期末等に補正を一括で行う会社もありますので、それぞれ実態に即した理解が必要です。

キャッシュの動きをしっかり理解するためには、上図で言えば「B当期仕入額」の部分を抽出して、P/Lの売上原価の額と比較してみると良いでしょう。

P/Lには次の表のように比較のため表示して(実際はP/Lには影響しない「参考値」ですが)、可視化しておくと良いと思います。