平成二七年の夏に起きた茨城県の水害の被害にあった人の安否確認の際にも、多くの問題が生じてしまったことが記憶に新しいところです。

法律や制度の改訂や保育団体の事業のほとんどは、審議会や委員会の意見を集約するかたちで、国レベルの行政にたずさわる人たちや保育団体の各種委員会の人たちによって発想され、大学の先生たちによって理論的に追認されるかたちで決定されています。

大学の先生は現場に足を置いてではなく、行政からお呼びがかかるかどうかにウェイトを置いているように思います。一方で、行政の職員や保育団体の事務を担当する人たちを含めて、現場にいる人たちは、だれも悪意を持って事業を進めていないように思います。

保育現場は、事務連絡の文章を読むだけにも多大な時間とエネルギーを使わなければなりません。

ましてや職員の自己評価や苦情解決制度など第三者委員の選定、設置などのかたちを実際につくらなければならないとなると、多くの時間と大きなエネルギーをかけなければなりません。保護者との信頼関係をつくることにほとんどエネルギーを割けないのが、多くの現場の現実のように思います。

以上は、私が見てきたことのごく一部にしかすぎません。現場には次から次へといろいろなことが押し寄せてきます。園長一人ではとても対応することができないので、ほとんどの園は主任や他の職員も加わって対応しなければなりません。

日常的には保護者対応や経験の浅い職員とのコミュニケーションにも時間を割かねばならない状態ですが、不十分にしか対応できない状況に追い込まれています。

園長が保護者との信頼関係を高めたり、主任が経験の浅い保育士とのコミュニケーションを図るとともに保育士の教育・指導を行うことは、非常に困難な状況にあるのが多くの現場の現実です。ですので、園長と主任保育士は信頼関係を強く持って対応しなければならないのです。そこに、こころの強さが求められます。

このような現実のなかでも、多くの園の園長・主任・職員は、子どもや保護者にできるだけの保育を届けたいと懸命にがんばっておられるのです。

さしあたって、いま、私から提言したいのは、府・県・市の監査のありかたについてです。

監査のマニュアルのようなものを一律に現場に当てはめるのではなく、現場をもっと個別化して監査するとともに、少しでも現場が現実よりもよくなるような姿勢で臨んでもらいたいということです。

また、大学の先生がたには、自分の専門領域に小さく自分を規制したり、行政や保育団体の期待に応じることにとどまらずに、保育と幼児教育現場にまで視野を広げて考えるとともに、発言してほしいと思います。