「あいかわらず、どんよりと冴えない顔だね」

ヨウム室を訪ねたわたしに、ミュウは開口一番そう言った。

「冴えない顔で悪かったわね。わたしは、昔からこういう顔なんですぅ」

「ふうん、今日はいつにも増して、すねかたがひどいな」

「いつにも増して、ってどういう意味? わたし、すねてなんかないもん。本多小羽子は、どこに行ったって、すなおなよい子で評判なんだから」

「人呼んで、仮面優等生」

「呼ばれてないし、仮面もつけてないし!」

「あれ、だってきみは、腹黒キャラじゃなかったっけ」

「ちがいます! わたし、腹黒なんかじゃありません!」

「じゃあ、そういうことにしとくよ」

ひょいと首をすくめ、ミュウが笑う。

「それできみは、なにを話したいんだい」

「え……なにって……」

「なにかを話したくてしょうがない、って顔いっぱいに書いてあるよ」

やっぱり、ミュウには、なにからなにまで見抜かれちゃってる。わたしが、わかりやすすぎるだけなのかもしれないけど……。

「とにかく、話してごらん」

こくりとうなずき、胸に手をやって心を落ちつかせると、わたしは、カード事件のあらましやサキ先輩のこと―現時点でわたしが知っているかぎりのことを、ミュウに話した。

「ふうん……」

話を聞き終えたミュウは、興味なさげに、菓子鉢の揚げせんべいをつまみあげた。

「ひと言でいうと、どうでもいい」

なにも、そこまではっきり言わなくたっていいのに……。

「……それと、ことわっておくけど、ここはべつに探偵事務所じゃない」

「そんなこと、わかってるよ。でも、今の言いかた、ちょっと冷たい。話せって言うから話したのに」

わたしは、ぷい、と顔を横に向けた。

そう、わかっていた。こんなとき、ミュウならきっとなんとかしてくれる―そう思ってしまうことが、わたしの甘え。ミュウからすれば、そんな虫のいい甘えなんて、ただ迷惑なだけ。それはわかってる。わかってるけど……。

ミュウは、椅子の上で脚を組み、黒タイツにつつまれた足先でローファーを揺らした。この季節になっても、ミュウは頑固なまでに黒タイツ派だ。

「とにかく、そもそものところからだ」

「そもそも?」

「きみとその先輩の関係からして、ぼくはなんにも知らないんだ。まずは、そこから話してもらわないと、どうしようもない」

「考えてくれるの!? ミュウ! ありがとう!」

わたしが飛びつこうとして手を広げると、ミュウは、あたかもそれを察知していたかのように、椅子ごとすっと遠ざかった。

「え〜、なんで逃げるの。ずるい」

「ずるくない。自己防衛だ」

「過剰防衛、断固反対」

「武器は持ってない。非武装の平和主義を貫いてる」

「あれ? スナイパーじゃなかったっけ」

「もう足を洗ったから問題ない」

「あ、そ……」

行き場のなくなった手をおろし、しかたなく(自称)元スナイパーの横に腰をおろす。そのままテーブルの上に置いた手を見つめながら、わたしは話しはじめた。

「わたしと先輩が会ったのはね、中学のときのクラス委員の会議なの……」