そこで私は、交渉担当者にもう少し情報をインプットし、状況を整理するのを手伝おうと思いました。以下が整理した事項です。

1.E国協会の年間収入は我が国のサッカー協会の10分の1以下であること。

2.E国の前代表監督と同じ報酬額をE国サッカー協会が提示していること。

3.D氏が要望している金額は我が国のJ1(Jリーグ1部)の中位のクラブの監督報酬レベルであること。その意味ではD氏が望外な要求をしているわけではない。

4.一方、日本の方がE国に比べてサッカー指導者に支払われる報酬レベルが明らかに高い。

5.E国のサッカー協会が提示している金額はJ1(Jリーグ1部)の下位のクラブの監督報酬のレベルであること。

6.D氏に監督として来てほしいと考える日本のクラブがその時点でいるかどうか?日本のリーグ戦が既に2か月前に開幕していたので、その時点で現監督を解任してD氏に監督職をオファーするクラブが出てくる可能性はかなり低いこと。

以上を勘案すると、D氏に全体の状況をきちんと説明してE国サッカー協会の現在の提示額が彼らにとっての精一杯の金額に近いことをご理解頂く他ないのではというのが結論で、交渉担当者も同意していました。

その翌日だったか、期せずしてE国サッカー協会の幹部から日本サッカー協会の幹部に直接電話が入り、幹部同士の話し合いで、案の定E国の提示額に近い金額で交渉が妥結する流れができたのです。

交渉においては当事者双方の置かれている状況に関する情報が多ければ多いほど、結論めいたものが自ずと見えてくるものです。

交渉相手だけではなく、第三者からの生の情報も交渉妥結の大きな助けとなることがこの実例からわかると思います。情報量の厚みと精度、それを収集できるだけの人脈を持っていることの重要性がうかがえる事例だと思います。

更にこの案件で何よりも重要なポイントは情報の整理分析が的確に、迅速に行われていたら、上司の介入前に交渉担当者レベルで話がまとまっていたのではないかということです。

ポイント振り返り

・情報収集の手段は1.ネット、2.過去事例、3.人に聞くの順に行う

・情報の厚みと精度は上記1,2,3でホップ、ステップ、ジャンプのように高まる。時間のないときは1,2は素早くやり、なるべく早く3に移行する

・日頃培った人脈は情報の宝庫

・誰から何を聞き出せるのか常にアンテナを磨いておく

闇雲に聞いても取れ高は低い

・情報はギブ&テイク

・情報の厚みと精度でより本質に近づいた方が有利になる

・収集した情報を整理、分析すると自ずと解が見えてくる