読書家が本の良さを伝えてくれたとしても……

読書のススメを説くような書物が氾濫しています。

曰(いわ)く、「読書は思考を深める」、「物語は想像力を掻(か)き立てる」、「多読はコミュニケーションを円滑にする」、ひいては「人生を豊かにする」などなど。

もちろん、それはそれで本当に正しい論考でしょう。ただ、そういうことを説く人は、ほぼ例外なく物心のついた頃から本が好きでしたし、本を読むことに抵抗がありませんでした。

芦田愛菜さんも、両親から読み聞かせをしてもらったことをきっかけに、幼少時期から本を好きになりました(『まなの本棚』〔小学館〕より)。やはり、子供の頃からすごい人です。

好きが高じれば、文芸の道に進む人もいるでしょう。文学を語るのは楽しい行為です。湧き水のごとく溢れ出る言葉によって、読書の魅力を伝えます。

しかし、いま現在、読書の嫌いな人がそれを聞いたとして、結果はどういうものになるでしょう。素直に、

「へぇー、読書にはそんなにたくさんの魅力があるのですね、今日から本を読もう」

となりますか?

多分ですけれど、おそらくは、きっとなりません。もともといいことのできる人の語る、そのいいことの内容は、習慣のない人にとっては、たいていの場合すぐに真似できません。

ジョギングが身体にいいこと、逆に運動不足が身体に悪いことは100%理解できますが、実践する人は限られています。

日常的読書のメリットについて快活に答える人の説く本は、「読むのが当たり前」、「良いこと以外に何もない」ということを前提に書かれているので、どれを読んでも感情移入できません。

本がいかに素晴らしいかを強調されても、こちらとしてはますます萎縮していくだけです。

のきなみ、読書以外からだって十分楽しみは得られるし、それによって賢くもなれるということに躍起になります。

だとしたら、読書嫌いだったがなんとか読めるようになったものの、いまだ本とは何かをまったく理解しておらず、相変わらず発展途上にあり、四苦八苦しながら紐解こうとしている人間の想いを紹介した方が、まだ少しは説得力があるのではないかと考えます。