フォンテーヌブローの森 1

クロード自身は、何よりムッシュー・マネの作品と本人に出会えたことに感激し、世間が彼の海景画に与える高い評価も知らぬうちに、もう次の絵の構想を膨らませていた。

サロンに出掛けた同じ五月、居ても立っても居られない様子でカミーユを誘った。

「シャイイへ行こう」

もちろん、次の作品を描くためである。ムッシュー・ドービニーの手紙にもあったフォンテーヌブローの森に面した村の名だった。

「大作を描くよ。ムッシュー・マネの『水浴』のような。自然の中に等身大の人物が何人もいる大きな大きな作品さ。観ている人が、まるで自分もその作品の一部と感じられるような」

まだ自分の頭の中にしかない構想にすっかり夢中になり、部屋中を歩き回りながら興奮気味にしゃべり続けた。

神話や歴史の一場面ではない、今を切り取った“生きた”絵。尊敬するムッシュー・マネをも凌ぐ大作を描きたい。画家クロード・モネは貪欲だった。

そんなクロードの様子がカミーユには愛おしい。

しかし、彼に付いてシャイイに行くのは、現実問題としてなかなか難しい。

彼の提案通り、二週間シャイイでモデルを務めるとすれば、その間テーラーは休まなければならないが、店主は決していい顔はしないだろう。

第一、両親には何と説明すればよいのだろう。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『 マダム・モネの肖像[文庫改訂版]』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。