ここで注意すべきは「実質的」の意味です。必ずしも職掌的に決裁権を持っている人物という意味ではなく、ある程度の権限を持たされて、その事業の中心にいて推進している人物であればいいわけです。

つまりその事業のエンジンになっている人物と言えばわかりやすいでしょうか? 交渉を始める前にそのエンジンたる人物がわかっているのがベストです。相手先と既にお付き合いがある場合は比較的容易にそれがわかるはずなので、確かめておくことが大事です。

一方、初めての取引先の場合、最初はわからない場合もあるでしょう。そういう時は、とりあえず先方の窓口となる担当者と交渉を始めながら、その担当者とのやり取りを通じて決定権を持っていそうな人物を探り出していく必要があります。おおよその目星がついたら先方窓口担当者に頼んで、打ち合わせついでにその人物に挨拶に行く、あるいはオンライン会議に引っ張り出すなどして、そのエンジンとなっている人物と直に接触することにトライすべきです。

直接話すことにより、その人物の人となり、組織内の立ち位置、その案件に対する真剣度、最終決裁者は誰なのか、あるいは窓口となっている担当者と実質的決定権を持つ人物との関係など大量の情報を得ることができるはずです。また実質的決定権のある人物と直に話すことにより先方組織内でもその案件に関する役割分担の体制が整理されることも時々あります。

ここで一点気をつけなくてはいけないのは、窓口となっている担当者の顔をつぶすことがないよう気を配り、尊重しつつ、決定権がありエンジンとなっているその人物とのパイプも構築することです。交渉が進むにつれて右記の仕掛けによって得られた情報が効いてくるものです。例えば交渉が暗礁に乗り上げた時の突破口となるアイデアはこれらの情報の中から出てくることがよくあります。

また、窓口担当者との交渉がどうもスムーズに進まない場合は、実質的決定権を持つ人物を引っ張り出して打開するという打ち手も可能になります。組織間の交渉においては交渉の進捗とともに先方組織内でどのような話がされてどのような変化が起きているのかを想像しながら進めていくことが大事です。

それにより、いろいろなヒントが得られるはずです。例えば交渉が暗礁に乗り上げそうになった時は、どのボタンをどのように押せば局面を打開できるかなどのヒントです。

このように実質的な交渉相手が相手組織の中の誰なのか把握すること、これは大変重要な要素であることを肝に銘ずるべきです。例え先方組織の都合上、実質的決定権を持つ人物と直接やり取りできない場合でも、常にその人物を意識して自分たちの意思がその人物にきちんと届いているかどうか、届いていたらその人物がどのような反応を示したのかを常に探っていく必要があります。

また節目節目に、その人物と直接やり取りする機会をうまく作り出していくことも必要です。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『ビジネスパーソンのための超実践的交渉術 ⽇本⼈の交渉のやり⽅』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。