「ホテルAの会長を怒らせてしまう。せっかく園原の開発に骨を折ってくれているのに。熊谷さんだって、園原の開発ができなくなれば悲しいのではないかな?」

「何が園原の開発だ、水子地蔵は父が始めたことじゃない!」

「いやそれは誤解だ。ホテルAの会長さんを怒らせないように頼むよ。会長と話し合ってくれんか?」

「なんだ? 会長と何を話す必要がある」

「いや、とにかく頼む。ホテルAの会長さんが会いたいと言っている。俺じゃないんだ、会長さんから言ってきたんだ」

ヤマダ会長からとは考えられないが、新聞に記事が出るだけでは解決しないこともわかっていた。

「会ってもいいが俺にも条件がある」

「ありがたい。何を話しても結構です。とにかく話してくれれば誤解は解けるから」

いちいち気にさわる。

「それじゃホテルAの会長さんに連絡するから、すぐするから待っていてほしい」

3度目の電話。

「急な話で申しわけないが、鶴巻荘に来てもらえないか。会長さんが待っているので」

新聞に出すのを止めてくれと、ヤマダ会長から言わせるのだろう。後先のことは考えていなかった。

阿智開発公社が経営する昼神温泉旅館鶴巻荘に着いた。玄関先にオカダ村長と福岡助役が出迎えにきた。案内されるままに二間続きの部屋に入る。そこで待っていたのは二人。

ホテルAヤマダ会長とクマカワマサオ議長。やはりそうか、ヤマダ会長は抜かりがない。

大きな座卓の真ん中には、見たこともないような大きな皿盛りがあった。

「どうぞ、どうぞ」と、村長自ら私を上座に案内する。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『空模様』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。