第三章 両親へ 1

瑞穂へのいじめが始まったのは小学五年生の秋からだった。

同じクラスの男子三人が、クラス全員に聞こえるように悪口を言ったり、机に落書きをしたり、教科書や上履きを隠したりして、困っている瑞穂を見て楽しんでいた。

六年生になると、いじめはエスカレートしていった。

休み時間になると「特訓」と称して、瑞穂を殴ったり蹴ったりするようになった。

たまたま、担任の教師が休み時間に教室に戻ってきて、瑞穂が殴られているところを目撃した。

瑞穂は安堵したが、あろうことか担任は、

「瑞穂の体にパンチがヒットした。かなりのダメージだ」

と「特訓」を実況し始めた。

身体のダメージよりも、心のダメージの方が大きかったことを瑞穂は今でも覚えている。

そのことがあってから数日後、「『特訓』をしたくなかったら、お金を持ってこい」と要求されるようになった。

自分のお小遣いだけでは足りないので、親の財布から盗んで渡していた。

小学校の近くの文房具店で万引きをしてくるように命じられ、消しゴムを選ぶふりをして手のひらに握り、そのまま店を出て、そいつらに渡したこともあった。

中学に進学すると、状況はさらに悪くなった。

バスケットボール部の先輩たちが優しかったのは仮入部の期間だけだった。

練習後に部室に呼び出され、「練習中にヘラヘラしてただろ」「挨拶がなってない」などと因縁をつけられ、数人の先輩から暴行を受けた。

最初のうちは瑞穂だけでなく他の一年生も同じように呼び出されていたが、そのうちに瑞穂だけが呼び出されるようになった。

「誕生日だから、お祝いしろ」と言われて、お金を取られた。

「このベルト、とてもいいやつだけど、おまえに売ってやるよ」と言われて、ボロボロになった白いベルトを不相当な値段で買わされた。

二年生になる前に退部した。

瑞穂へのいじめは、先輩からだけではなかった。

小学生のときの三人とは別のクラスになったが、廊下ですれ違った際に殴られたり、後ろから蹴られたり、階段の上から唾をかけられたりした。

そのうちに、瑞穂に対してクラスのほとんど全員が無視するようになった。

給食にゴミが入れられていたこともあった。

机と椅子が廊下に置かれていたこともあった。

トイレで小便をしていると、後ろから押されて、下半身が便器についてびしょ濡れになったこともあった。

あるとき瑞穂が教室の席に座って本を読んでいると、女子生徒たちがじゃんけんをしている声が聞こえてきた。

そのうちの一人が瑞穂の方に近づいて来た。

瑞穂がその女子生徒を見ると、

「見るなよ、気持ち悪いんだよ」

と言いながら瑞穂に手を近づけ、他の女子生徒たちに向かって、

「触ったよ」

と言うと、他の女子生徒たちは、

「触ってないじゃん、ちゃんと触れよ」

と言い返した。

――じゃんけんの罰ゲームが、自分を触ること――

瑞穂は本に目を向けたままじっとしていたが、体が震えていた。

二年生になってクラス替えがあり、小学生のときの三人のうちの二人と同じクラスになってしまった。

再びお金を要求された。

親に「参考書を買ってくる」「友達と遊んでくる」と言ってもらった小遣いをそのまま渡した。

お年玉で購入したゲーム機は、「貸して」と言われて、そのまま返ってくることはなかった。

あるとき体育の授業中に机の上に置いていた制服がズタズタに切り裂かれていたのを見て、

――親になんて説明しよう――

と悩んだ。

――もうだめだ――

と思った。

瑞穂が自宅の郵便受でチラシを見たのは、その数日後のことだった。

――お父さんとお母さんにメッセージを残したい――

チラシに記載された番号に電話をかけた。