海堂の台詞を遮る巡波。落ち着かない様子の原田紀行氏をソファに座らせ、アイスコーヒーの準備をする紅弥。

「安達輝時代のわたしを知ってくれているなんて嬉しいです。今でもGELATOの読者さんですか?」

「は、はい……、毎週き、金曜日は本屋に行くのが習慣です」

「ええ? ジェラートって月刊じゃなくて週刊なの?」

今更のように驚く紅弥。

「契約タレントが豊富だからね。投票の少ない子は、撮影しても紙面を飾れない週もあるのよ」

巡波を古くから知る原田青年の入居は、どんな新風を巻き起こすのだろうか?

病を抱えた青年、巡波への想い

本人の口から直接聞いたわけではないが、原田紀行くんは強迫神経症という精神の病を抱えているらしい。

初対面から3日後、彼は巡波と初めてまともな言葉を交わした。

「じゅ……11歳、年が離れた男をどう思いますか?」

「どうって、恋愛に年齢差は関係ないと思いますよ」

「安達さんは、し、素人のカメラの前にも平気で立ちますか?」

「あまり気乗りしないけど、どうしてもっていうのなら……」

離れたテーブルの椅子に何気なく座り、聞き耳を立てていた俺(海堂)の分析では11歳という年齢差は原田くんと巡波の隔たり、素人のカメラは原田くん自身の撮影、ということにならないだろうか?

俺にとって巡波は仲間の枠組みを超えない間柄だが、何とかっていう雑誌の読者は、一つ屋根の下で生活できるという夢物語に興奮し過ぎて熱を上げるのは理解できる。

しかし、自分を含め現代の人間、限定的にいうならば日本人は、正気の沙汰とは思えない犯罪を平気でやってのける。

実に危険だ。強迫神経症という病が一人の青年を、人間の皮を着た化物に豹変させないことを願うばかりだ。……って、大袈裟だし、失礼だよな。

何事も無ければいいが、果たして?