私は黙ったまま、急いで車に戻った。乗り込むと、すぐにロックをかけた。男性は助手席側のドアを開けようと、ガチャガチャしながら喚いている。

「たまにはダンナ以外もいいじゃん」

エンジンをかけ、手で払う。それが精一杯であった。エンジンをかけたので、諦めたようだ。男性は文句を言いながら、去っていった。……。

気持ち悪い。怖かった。そのとき、友だちから電話。出てから、いまの出来事を話した。

「なんで警察呼ばないの?」

「だって前にSOSを出したとき、すぐに来てくれなかったもん」

「そっか。気をつけて帰るんだよ」

私は電話を切った。やはり、酔っぱらいは嫌いだ……。でも、コンビニの店員さんに何もなくて良かった。諦めていなくなってくれて良かった。タクシーに乗り込まれたら、私がSOSを出すところだった。衝撃的な出来事に私はしばらくボーッとしていた。

そのとき、ドライバー仲間のタクシーが目の前を通過。彼は日頃から、私を気遣ってくれている。いつもは違うエリアを回っている彼だが、たまたまこちらに来たのだろうか?

私は彼に電話して、

「コンビニにいるから」

と戻ってきてもらった。彼の顔を見たら、ホッとしたのか(?)涙が出てきた。

わけがわからないながらも、彼は黙ってハンカチを差し出してくれた。春の夜風が濡れた頬を優しく撫でていく。

「大丈夫。なんて事ないよ」

と囁くように……。