日が暮れてもなお、ドラッグ取引は続く。すでにみんなハイだ。何人かの男性たちはそこら中に唾を吐き、乾いた口の中を潤すように酒をすする。どれだけの量を吸ったのか見当がつかないが、そのうち一人の男性は、吐くんではないかと思ってしまうほどの激しい咳き込み方をしている。その横でスペイン語のラップを始める者もいる。

唯一、つねに冷静であり続けているのはリーダーだ。Weedを吸っても吸いすぎない。酒を飲んでも飲みすぎない。エクスタシーで興奮気味な先ほどの若者がポケットからバタフライナイフを出して見せた。私がそれを手に取ると、「ケガするからやめろ」とリーダーの彼は、その若者にすぐにそれをしまうように注意を促した。人通りの多いこのストリートで、むやみに凶器をさらすというのも少々無用心なのかもしれない。誰がどこで見ているかわからない。

尻の大きな女性が私たちの前をゆっくりと通りかかった。腰には大きなタトゥーが刻まれている。私を不審な表情で見つめる。彼女は嫉妬心を剥き出しにしているが、どこか自信がなさそうにエクスタシーの彼の首に手を回し、肩に手を置いた。彼はバツが悪そうに下を向いている。彼女は小さな声で

「何してるの? 帰ってくるでしょ? ね? 帰って来てよね」

と必死に問いかけているが、彼はただ「うん、うん」と頷くだけ。

彼女は諦めてその場を後にした。その後しばらくして、中年の女性がやって来て、リーダーを抱きしめながらこう言った。

「私の息子をよろしくね。(Take care of my son.)」

その女性は彼の友人の母親だと言う。真面目に生きていても命を落としかねない環境の中で、自分の身を守ろうとギャングになったとしても、その代償は計り知れない。息子を持つ一人の母親の気持ちを考えると複雑だ。大切な息子には、ギャングとは関わらずに自分の人生を恥じることなく真っ直ぐに生きていって欲しいとほとんどの母親は考えるはずだ。それでも、もし息子がギャングとして生きる道を選んでしまったとしたら。そのとき母親はどうするのだろう。何が何でも息子をギャングから抜け出させるのか、それとも黙って見守り続けるのか。ギャングになることを勧める母親も中にはいるかもしれない。

すがりつく勢いでリーダーを抱きしめる母親の姿は、私には悲しく感じられた。