短くて長い夜

「今夜これからどうする?」

とリーダー。

「特に私は予定ないけど」

「何かしたいことある?」

「そうだな……。映画が観たい」

「いいよ。あとで行こうぜ」。

Hoodの若者にとって週末の夜は長い。午前0時を回ったとき、彼らにとっての夜が本格的にスタートするのだ。

いつの間にか小学生や中学生ぐらいと思われる少年たちも仲間に加わっていた。彼らは使い走りを買って出る。いずれは自分もこのストリートを支配し、大金を稼いでやるんだという強い思いを抱いているのだろうか。

少年の一人が、あるメーカーのジュースを買ってくるように先輩に使いを頼まれているのだが、なかなかそのジュースの名前が聞き取れない。何度も何度も聞き直している。

先輩は苛立ちを隠せない様子で、

「だから○○○って言ってんだよ」

と非常に強い口調でその少年に伝えた。これ以上聞き返せば、先輩は確実にキレルことは私にはわかった。少年は不安そうな面持ちで、Deliの中へ入ったが、少しして手ぶらで戻って来た。

「ジュースの名前、何だっけ?」

先輩の表情が変わる。

「てめぇ、何べん言えばわかんだよ。頭おかしいんじゃねーのか。だから○○○って言ってんだろ」。

先輩が大声で叫ぶ。少年はDeliの中へと戻って行った。ブツは車のボンネットの中やタイヤの内側、壊れたソファを持って来て、そのクッションの下などに隠されている。

ブツは、役割分担のもと、見事な流れ作業で客に売り渡されていく。その動きは非常にさり気なくて、素早い。注文を受け、少し離れた場所までブツを取りに行くのは、少年にジュースのパシリを頼んだ先輩の役割だ。

小柄な彼の動作は、非常に機敏ですばしこい。Mocaの目を盗みながら着実に売り上げを伸ばしていく。取引の最中ではあるが、空いた時間などに彼らは、ときどきバスケットボールをして遊ぶ。

そのとき目にした彼の動きは見事なものだった。ドリブルをしながら立ちふさがる相手のガードをしなやかにかわし、敵の間をスルリと通り抜け、あっという間にシュートをきめてしまった。この素晴らしい彼のスキルに私は思わず目を奪われた。

この華麗なるスキルはドラッグ・ビジネスに大いに活かされているのだろうか。

彼に限らず、ストリートのどれだけの若者が、どんな才能や能力を内に秘めているかわからない。彼らの話に耳を傾け、一つひとつの動きを注意深く見ていると、一人ひとりの個性が徐々に現れてくる。

彼ら自身がそれに気付き、社会に自分自身を堂々と表現できる手段や機会がもっとあればいいのにと思う。ストリートという狭い空間だけでなく、もっと広い視野を持ったとき、おそらくいままでとは違った世界がたくさん見えてくるだろう。