目をしっかり見つめてみても、以前とは違う人に見えた。手が震えた。人生初めての感覚に、不安が体を揺さぶった。

「優、なんかお前やっぱり変だぞ?」

「ん。ちょっと気分が悪いかもしれない。外でコーヒーでも飲んでくるよ」

「俺もつきあう。じゃあ、またね城間ちゃん」

目の前にいるのは城間さんであるはずなのに、ニコリと笑う彼女はこの前とは全く別の女性に見えた。一体どうなっているんだ。

僕の記憶は全部僕の中にあるはずなのに、なんで。なんで彼女のことだけ覚えてないんだ。

「ブローチ楽しみにしてるね!」

ウィスパーの声だけは忘れてない。でも、初めて会った時の服装も髪型も表情も全部思い出せない。

なんでこの一週間それに気が付かなかったんだ?

僕と健ちゃんは校舎の外に出て、自販機でコーヒーを買い、中庭のベンチに座った。梅雨と真夏の間の日差しに照らされながら僕はコーヒーの缶をあけ、とりあえずという感じで口に含めるだけ含んで一気に半分くらい飲み干した。

「優、顔色悪いけど、なんかあったか? 彼女の作品随分気に入ってたみたいだけど、本当に買うんだよな?」

「もちろん。あの作品が手に入るなら売れそうな絵を描くし、売れそうなアクセサリーを作るし、売れそうな彫刻をするよ。健ちゃんに教えてもらったハンドメイド販売アプリの売上金も一週間だけなのに結構順調だし。一万円なら今すぐコンビニでおろしてくるよ」

小声でそう言ってから、少しだけ後悔した。自分の作りたい作品じゃなくて万人ウケする無難に売れそうな作品を作るなんて、作品イコールお金じゃないか。

いや、でも二年間この学校で学んでからは作品をお金に換えて生活していくのなんて当たり前のことになる。

けど、作った作品がお金のための雑な作品になったら僕の目指している芸術家のスタンスとは違ってしまう。

僕が目指しているのは、誰かの宝物になるような作品を作って対価をもらうことだ。城間さんみたいに、僕の作品に期待をしてくれる人が、お客さんになってくれることが僕の夢で、それが僕の芸術家像だ。

今まで作ってきた作品はほとんどが僕の記憶からピックアップされた過去の絵やインスピレーションから構成されている。

でも、城間さんには過去じゃなくて未来を渡したい。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『100点をとれない天才の恋』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。