けど、この学校に入った理由は単純だ。バカとハサミは使いよう。担任だった先生からその言葉を聞いた時、バカだけど僕はハサミが上手く使える人間だと気が付いたからだ。

親から褒められた記憶が幼稚園に入る前に勝手に遡る。僕は母が使っていた扇子を見て、割り箸を割り、先端に輪ゴムを巻いて蛇腹式に折った紙を割り箸に張り付け扇子を作った。ちゃんと畳むことが出来たし、両親は僕を天才だと褒めてくれた。

けれど天才は両親に新しいレールを用意された。読み書きと足し算引き算だった。これだけのモノが作れる天才なら、勉強も出来て当たり前だと思われたのだ。

そのせいで僕は天才と馬鹿を何度も何度も行き来した。絵や木彫りアクセサリー作りにレザー細工、音符を読まずに耳で聞いたピアノを真似して弾くのが得意だった。

でも、親が期待していた勉強が全然出来なかった。九九も覚えられず二桁以上の計算はいまだに指を使わないと出来ない。三桁になるとメモ用紙に筆算を書くけど、答えが合わないことの方が多い。漢字も小学二年生レベルで読めても書けない。

高校は少し遠いけど、誰でも入れるレベルの私立高校になんとか合格して、それでも成績は最下位だった。皆勤賞の僕よりも、留年間近のサボり魔の同級生にさえテストで勝てなかった。

悔しかったけど、僕が絶対の自信を持っていたのは、記憶力だ。勉強には全く使えないけど、僕は思い出という出来事を事細かに記憶する能力がある。いいことも悪いことも悲しいことも嬉しいことも、その記憶量が人並み外れている。

思い出そうとしたらすぐに思い出せるし、何か連想する単語があると思い出の引き出しが勝手に開く。自発的に思い出せるのは便利だけど、勝手に嫌な思い出がフラッシュバックしてた時はいつだって最悪な気分だ。

誰だって思い出したくない記憶はいっぱいあると思うけど、僕は物心ついた時からの思い出が全部記憶されているからその分、誰よりも忘れたい記憶が多い。

だから、僕は一生懸命イライラするのを止める癖をつけた。