「それがICなんだ」

「IC、難しかったでしょう?」

「はい」

「具体的にはどこが難しかった?」

「えっと……」

「パッと答えられないだろ?」

「はい」

「それがICなんだ」

「はあ」

「患者さんに言っていることは簡単なことで、山川君はもちろん、医学生だって知っていることなんだ」

「はい」

「ポイントは相手を見て話すこと。これは上の先生にコンサルトする時も一緒。もちろん知識も必要だけど、それ以上に相手の反応を見ながら、話す順番を変えたり言い回しを変えることが重要なんだ。さっきおれにコンサルトしてきた時、内服薬や手術歴、家族が来られるかを聞いたよね? あれは知識が必要だった例で、ICや手術をするにあたってこれらの情報は必須なんだ。家族がいないとICはできないし、手術歴や内服薬がないことは手術をすすめる根拠になる。あの時山川君がそこまで分かっていたら、もっといいICができたはずだよ」

「はい」

「これは訓練だから慣れたらできるようになるよ。どんどんやってうまくなっていこう」

「はい」

「さあ、そろそろ入室の時間だ。執刀は何回目?」

「6回目ですが、アッペは初めてです」