(よかった、執刀させてもらえるんだ)心の中でそう呟き胸を撫で下ろす。森本さんのアッペはCTで見ると想定していたよりかなり炎症が強そうでアッペの執刀経験のない僕には少々難しい症例である。実際、アッペは高度の炎症で救急搬送されることも多く、「初めて執刀するには難しいし時間がかかるから」という理由で執刀させてもらえず助手に回ることがしばしばあり、ここまでアッペの執刀の機会に恵まれなかった。

それにICもうまくできなかったため、今回も助手に回されるんじゃないかと不安だった。

「手順は分かるよね?」

「はい、なんとなくは……」

助手なら何度かしたことがあるし、腹腔鏡下虫垂切除術はそれほど複雑な手順でもないのである程度は分かっているつもりだ。だけど、自信を持って「はい」とは言えなかった。

「完遂できるよう頑張ってね」

「はい。頑張ります」

僕はここでも執刀したいのかしたくないのかよく分からない態度をとってしまう。もちろん執刀したいし、させてもらえることになって嬉しい。手術室に入ると、看護師さんたちが道具の準備や部屋の機械のセッティングをしており、麻酔科の先生は手術台の頭元で麻酔器や薬剤の準備を行っていた。

「よろしくお願いします」手術室のスタッフに声をかける。

「お願いします」

「お願いします」

業務的な挨拶が返ってくる。深夜ということもあり、スタッフに疲労の色が伺える。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『孤独な子ドクター』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。