「お待たせ、七〇七号室に移動しましょう。七〇七号室の前の患者さんの手続きに案外と時間がかかってしまったわ。その患者さんはC-1に戻ることになったのよ」
「C-1ですか~? 私が最初に入院したところですね」
「そうそう、まず初めに入院する場所なんだけどまた、治療法が最初に戻ってしまったの。アッキーママはそんなことがないように頑張りましょうね」
「はい」と、答えたものの治療法が最初からなんてどういう意味なのだろうと考えていると、不安な気持ちになる暇もなく大滝ナースはスーツケースを載せたベッドを動かして堂々と、そして悠々と前を歩いていくではないか。

アッキーママは大滝ナースの後ろをあわててくっついて七〇七号室に向かった。そこはアッキーママにとってメリーゴーランドのような極上の人生の始まりだった。

「わ~凄い、綺麗、そして広~い。ここを私ひとりで使っていいんですか? 素敵。でも、あのう~差額ベッド代はかかるんですか? おいくらですか? 高いのですか?」

アッキーママは矢継ぎ早に大滝ナースに質問した。

「うふふ、差額ベッド代を気にするなんて、いじらしいわね」
「気になりますよ。アッキーパパに負担ばかりかけてますから」
「大丈夫。ここは差額ベッド代なんてないわよ。この部屋は『ホゴニュウイン』の人のための部屋よ」
「ホゴニュウイン?」

大滝ナースはまた後で説明するからと、「この洋服に着替えてね。可愛くてお洒落よ。ホゴニュウインの方の制服だからね。まもなくお昼ご飯だから、『レストラン・菜』まできて頂戴な、よろしくね」

それを言うと小走りで消えていった。胸はボインなのに後ろ姿は驚くほど華奢であった。
 

恋して悩んで、⼤⼈と⼦どもの境界線で揺れる⽇々。双極性障害の⺟を持つ少年の⽢く切ない⻘春⼩説。