DSはラッパーになる夢を抱き、1か月前には自作CDを完成させたばかりだった。彼もまた友人が多く、ストリートではちょっと名の知れた存在だったようだ。

14歳の頃からラップを始め、「絶対、一流のラッパーになってやる」といつも話していたらしい。

なぜ、殺されたのか。真相はわからないが、Dの話によると、高校にはライバル的存在の少年がおり、その少年とのトラブルが原因だったようだ。DはDSの死を悼み、曲を作った。

「彼はいい奴(nice guy)だったよ」。

Dはそれだけ言って口をつぐんだ。

10代の2人の少年を同時に失ったHunts Point。Steveの死は新聞に取り上げられ、Hoodの人々の間にも広く知れ渡った。 あちこちでSteveの死を悼む声が聞こえてくるが、一方でDSの死を知っている者はいまのところ少ない。

ストリートを歩いてもまだDSの慰霊碑は見当たらない。Tats Cruさえも彼の死を知らずにいた。

私は彼らにDSの死を伝えた。また一人の若者がストリートの犠牲となった。生前は肩を張り、息巻いていたラッパー少年の死は、よくあるGhetto(ゲットー)の事件の1つとして流されてしまったのか。

DSの死を悼む手作りの慰霊碑や、彼の肖像画がもしかしたらどこかにあるのかもしれない。私はもう一度、確かめてみようと思っている。

夢を抱き、志半ばで突然人生を絶たれてしまった2人の少年。あまりも短い人生である。