しばらく沈黙が流れる。

「僕が古いレコードのコレクターだったことを知らなかったんだね」やがて、やせた方の男が言ってタバコを吸った。

彼は一枚の古ぼけたレコードを取り出して、かけた。と、いきなり懐かしげな音楽が響いて、先ほどの映像を映し出した。あっと驚いて、眼鏡の男が映像に釘付けになる。その背後から声がした。

「レコードの上の人形たちよ」、と声は言った。「遊んでいるがよい。わたしがレコードをまわすときだけ、お前たちは生きることができる。だが、覚えておくがよい。生きることがどんなにはかないことであるか、それをお前たちは知ることができないのだ。永遠のはかなさを知っているのは、それはわたしだけだ。このレコードを消すことができるのはわたしだけだからだ」

やせた男はレコードを止めた。すると、楽しげな映像も同時に消えた。
「君は知っていたんだね」眼鏡の男は立ち上がって、やせた男に近づいた。

やせた男は無言でうなずいた。

* * * * 

いきなり明るくなった室内で、香奈は目をぱちくりした。右隣に茜が、左隣に美咲がいたことをようやく思い出した。異次元の世界を旅行してきたような軽い疲れがある。尤も、風間の芝居はよく分からない。

「喫茶店に行こうよー」と茜に言われて、三人は歩き出した。
「風間さんに会わなくていいの?」と美咲が聞いた。

「忙しいの」と茜は不満そうにいった。「次の芝居がすぐに始まって、今度はその芝居の照明係をしなきゃならないんだって」

喫茶店で、三人はケーキセットを注文した。運ばれてきたケーキを見て、
「あら、なんだか小さい」と茜は文句をいった。