「もうご飯が食べられるんですか?」
「はい、食べられますよ。食べてみて吐き気がしたり、お腹が痛くなったりしたら教えてくださいね」

こうして患者さんを通して上の先生から知識を得る。これを繰り返して少しずつ自分で判断できることを増やしていくのだ。

しかし、いつもうまくいくとは限らない。

「〇〇さん、血圧が少し高いみたいなので、降圧剤の点滴を開始したほうがいいと思うのですが」
荒木先生のPHSに電話をかける。荒木先生は7年目の医師で女医さんだ。

「分かってる。今忙しいから切るね」

日中は手術でなかなか先生が捕まらないため、タイミングを見計らって早朝か夕方以降に連絡する。しかし、外科医は多忙であるため、どうしても間が悪くなってしまうことがある。

「僕がやっておきましょうか」
「私が後でやるからいい」

何か僕にできることがあればやりたい。そう思って聞いてみたが、荒木先生にあっさりと断られる。意を決して言った僕はすごく落ち込む。

患者を受け持つ医師には、「主治医」と「担当医」がいる。文字通り主にその患者を担当するのが主治医である。外科では手術の執刀医が主治医になることがほとんどだ。そして、助手として手術に入った医者が担当医になる。つまり、僕は担当医として患者を受け持つことになる。

基本的には主治医が中心になってその患者さんを診るのだが、先生によってスタンスはまちまちで、担当医に全て任せる先生もいれば、全部自分で管理したい先生もいる。そのあたりは空気を読んで動かなければいけない。