そもそも、僕は根っからの旅好きだった訳ではありません。二十代の頃、週末の僕は、ほぼ寝たきり青年でした。

月曜日からの仕事のことを考えると、とても体を動かす気にはなれず、ひたすら寝転がっての読書三昧でした。土曜日の朝から、既に「サザエさん」を見終わったような気分になっていたのです。ですから、金曜日の夜の時点で、「笑点」を見終わったような気分になっていた計算になります。

そんな出不精だった僕は、朝の通勤電車を待つ時、ホームに大分行特急が滑り込んで来ると、この列車に乗って別府温泉に行きたくなる発作に頻繁に襲われました(ちなみに僕は九州の小倉在住)。これは、旅不足からくる深刻な症状です。

重症化した僕でも結婚を機に回復していきました。夏休みや冬休みには、女房や子供たちを連れての旅が必修科目となったためです。

次第に、旅が持つ命の洗濯効果に気付いてきました。今では、どこに旅をしようかのイニシアティブは家族の誰にも渡さず、旅の行先は僕の選択科目になっています。

これから読んでいただくのは、僕と女房と子供たちとのささやかな旅を綴ったものです。通勤電車に揺られて、職場に向かう、または職場から帰る際に、この旅行記を読んでいただき、親愛なるサラリーマン諸氏にとって不足しがちな旅成分の補給の一助となれば幸いです。

では、前置きはこれくらいにして、僕の旅にご案内いたしましょう。