ライジング・スター

しばらく執筆に専念する日々が続いた。少し前まで筆が進まない時期があったが、家族のことを思うとそんなことは許されない。とにかく書くことだ、と自分に言い聞かせる。

今取り組んでいる作品は、眼病を患い次第に視力を失っていく若い画家が主人公だ。失われる光の中で、やはり画家を志していた妻の口述による助けを借りながら作品を仕上げてゆく。全ての光を失った後は妻に筆を託し、自ら口述して魂の作品を完成させる、という小説だ。

微細な色彩、繊細な筆致、そして全体像をいかに精緻に主人公と妻が言葉で表現し、伝え合うかが作品の重要なテーマだ。

必然的に自分の得意とする比喩表現を織り込むことができる。淡々としたストーリーだが、もし出版にこぎつければ、読者がレトリックの美しさを味わい、読者それぞれの完成された美しい絵を思い浮かべれば満足だ。

それにしても島崎からの連絡が待ち遠しい。あれから二週間が経つが……。やはり彼ほどの立場にとって、俺などはまともに相手をするような存在ではないのだろう。図々しく持ち込みしたことを少し後悔した。そのとき、携帯メールの着信音が鳴った。

島崎からだった。

とても丁寧な文面で読了に時間がかかったことの詫びと、作品を提供してくれた御礼および面談候補日が書かれていた。さっそく御礼といずれの面談候補日でも可能な旨の返信をした。すぐに返信があり、面談日は来週の水曜日になった。