「田辺巡査はあの事件……ではなかった。あの不慮の事故死を実際に見た?」

「もちろんこんな小さな町で起こった死亡事例ですから、本官もそれなりに関わっています。まず乙音さんからの連絡を受けて、すぐに駆けつけたのが自分でした。救急車が来たのはその後ですが、自分が先だったのは単に距離の問題です。

乙音さんの案内で、めぶき屋さんのはなれに行くと、双子のもう片方である汐里さんが体の上下をバスタオルで挟む形で座敷に寝かされており、千景さんが必死になって心臓マッサージしているところでした」

「その後は?」

「しばらくして救急車が到着して、汐里さんと千景さんとを乗せて柳瀬町の病院に向かいました。自分は乙音さんと現場に残りましたが、2時間後には会津若松警察署から何人か署員が来て、現場検証が始まりました」

「それで?」

「はい。乙音さんの証言によると、あの時は乙音さんと千景さんが買い出しを終えて、会津若松市から帰って来てすぐに発見したということでした。その後現場の状況をひと通り調べている時に、病院から汐里さんの死亡が確認された旨の一報が入りました。現場検証に要した時間は全部で2時間ほどだったと思います」

「現場検証で、不審な点はあった?」

「もちろん若い女性が、死因不明で亡くなってしまった訳ですから、それなりに入念に調べました。数ヶ所指紋も取りましたし、不審な箇所がないかあちこち細かく観察しました。ですが、結果的には事件性なしという結論に達しました。

汐里さんの遺体の検視解剖も行われましたが、その結果、発見時刻が11月10日の午後2時頃であったのに対し、死亡推定時刻はそれより2時間ほど前のちょうど正午頃だということがわかりました」

「ここから会津若松市までの往復には大体どれくらいかかるかな?」

「そうですね、どんなに急いでも片道1時間、往復2時間はかかるかと」

「2時間か…………。その他に買い物に1時間くらいということは、乙音にはばっちりアリバイがある訳だ」

「アリバイですか?」

怪訝そうな顔で、田辺がアリバイという単語を復唱した。

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