電車の走る場所

「いや、別に……電車が走ってればどこでも見える」

「地上でも地下でも?」

「うーん。地下鉄は速く走っているところが見えないから、ほとんど高架を走っている電車で見る」

「ふーん」

鉄道男子は少し考え込む様子を見せたが、旅行雑誌を閉じると原田に言った。

「聞いたことないよ。自分も見たことないし、そんな話は鉄道マニアの間で噂にもなってない」

この言葉に原田は肩を落とすと「ありがとう」と言ってその場を去った。走っている電車に黒くゆらめくものが見えるのは自分だけだということがわかって以来、原田はこのことを他人に言うのをやめた。

なぜ、自分だけにそんなものが見えるのか不思議に思いつつも、特に困った事もないので、深く考えることをやめ、時々電車に目をやるも、そのまま日々を過ごしていた。

そんなある日、いつものように見るともなく走る電車に目をやっていた原田は、黒くゆらめくものが徐々に大きくなっていることに気がついた。

最初に見た頃は、一筋の黒い線のようだったものが、今では黒い影が楕円形のように見える。まるで異次元へつながっているトンネルのように見えた。

そんなだから、原田自身、何か恐ろしくなり、走る電車を見ることはヤメにしようと思い始めた……が、日増しに大きくなっていく黒い影が逆に気になってしまい、結局毎日のように走る電車を目で追ってしまっていた。

電車が走る。日ごとに大きくなる黒い影。それを見つめる原田は、ある日その黒い影の中に人の顔を見た。電車が走っている間に出る黒い影の中に、男の顔が出現するのだ。

それから、ますます走る電車を目で追うようになった原田は、車両に浮かぶ男を見てあることに気がついた。

(なにか、しゃべっている……)

電車の影に浮かぶ男の口が動き、何かを言っているようだったが、車両が通り過ぎる時間が数秒であるため、男が何を言いたいのか原田にはわからなかった。電車が通るたびに何度か目を凝らして見た原田だったが、最終的にこう思った。