大阪弁で読む『変身』

それに列車に追いついたところで社長の大目玉は避けられん。なんせ使用人が五時の列車に合わせて待っとってグレゴールの遅刻をとうにチクっとるわけやから。こいつは社長のお気に入りやった、性根も頭もないくせに。

それか、病気や言うたらどないか? いやいやこれほどカッコ悪うて怪しい言いわけもなかろう、グレゴールは五年勤める間病気になったためしがない。社長が健康保険組合の医者を連れて来て、両親をグータラ息子のことでボロカスにこきおろしたうえ、どない言うて抗議しようが医者の言うことひとつで切って捨てるに決まっとる。

この医者にとっては、人間には至って健康なくせに仕事は嫌いというやつしかおらんのやから。とは言うものの今の場合、この医者の見解もまんざら大間違いでもないんとちゃうか? 実際、寝過ごした後やと言うのにまことに眠いこと以外グレゴールは至って健康で、大いにすきっ腹でさえあった。

グレゴールがそれやこれやを大急ぎで考えて、けどベッドを出るふんぎりはつけかねとると──まさに目覚ましが六時四十五分を打った──ベッドの頭っ側にあるドアを慎重にノックする音がした。

「グレゴール」という呼びかけ──母親やった── 「六時四十五分やで。出かけるんちゃうの?」優しい声! 

それに答える自分の声を聞いてグレゴールはギョッとした。間違いなしに自分の前からの声ではあったけど、何やら下の方から響くような、おさえようのない苦しげな悲鳴が混じっとって、単語が最初の瞬間こそきちんと聞き取れるもののそっから続く音はさっぱりワヤ1で、きちんと聞き取れるか分かったもんやなかった。

グレゴールは詳しく答えてみな説明する気やったけど、こんな状況やから「はいはい、おおきにお母さん、今起きましたわ」と言うだけにしといた。木のドアのおかげで、グレゴールの声が変わってんのは外からは気づかれにくかった。

母親もこの説明で気がすんで、足を引きずりもって2離れた。ところがこの短い会話で他の家族も気がついた。グレゴール、まだ家におったんかいな。横のドアを父親が軽くやけどこぶしでノックした。

「グレゴール! グレゴール!」と声をかけてきた。「どないしてん?」少し間をおいて、もひとつ低い声で返事を催促した。