しかし、そのようにすると国から被害者への救済の方法が存在しなくなることから、東日本大震災は「異常に巨大な天災地変」ではなかったという解釈がとられ、東電に無過失責任を無限に負わせ、国は東電に対して「援助」するというスキームがとられた。

原子力損害賠償法は、原子力事業者に対して過失の有無を問わずに絶対責任を負担させるが、原発事故当時の政権は、福島原発事故が人災であるとの立場をとった。そして、東電に対しては、経営破綻会社のような扱いで「援助」を行っている。

国は、事故当時において東電の債権者等に債務免除を求めたりした。これは実現できなかったが、東電株主に対しては国が種類株を取得して当然のように支配株主となった。今や、国は、業界のリーダーであった東電の支配株主となっている。

そして、このように東電を国有化した国は、懸案の電力自由化を推進させてきた。この電力自由化によって、東電は、公益事業会社としての安定的な電気料金収入を否定されることになり、また東電株主は国に東電の支配権を奪われたことから自らの持分権を著しく希釈化され、さらには利益配当を今なお禁止されている。

国は、援助という名目で東電およびその株主の憲法上保護される私有財産権(29条)を侵害している。

国は、原子力損害賠償法上の「援助」において、東電の支配株主となって東電が損害賠償責任を果たすことを管理監督することにした。これは、原子力損害賠償法の目的に適合しない「援助」であり、東電及び東電株主の財産権の侵害となる。国は、支配株主として財政負担の軽減を優先させ、東電少数株主の利益から損害賠償させるという利益相反行為による「援助」を行ってきた。

しかしながら、人災説に基づく国の「援助」の在り方は、最高裁判所が、2022年に福島原発事故は人災ではなかった旨を判示したことから、根本的な見直しが必要になっている。絶対責任により、天災による災害の損害賠償責任を果たす東電は、なぜ支配権を国に奪われなければならなかったのか。

東電および株主は、最高裁判決を手掛かりとして、国に対して支配権の即時返還を求め、憲法違反の財産権侵害に対する自力救済を図ることが考えられる。