第二章 ピカデリーホテル

ジェッダはビール等を持ったイマルと一緒にホテル搬入勝手口の手前に有る無施錠の出入口から入ると直ぐに清掃員控室へ向かい、控室のドアをノックし開けた。中に少し太ってエプロンを掛けた清掃員二人が雑談をしていたらしく吃驚した顔で入口を見た。

ジェッダは優しい顔で「こんばんは! 何時もありがとうご苦労さん、時々見かけたよ……」と言ってビールパックとポテトチップス袋を目の前に突き出し「此れは何時もお世話になっているお礼だから飲んで!」と吃驚した顔をしたままの相手に差し出した。

二人は最初不安そうな顔をしたが、お互いを見て直ぐ嬉しそうな顔をして袋を受け取り二人で中を覗き込んだ。その時ジェッダの違う手からブラックジャックが一閃し、二人のこめかみを瞬時に打ち、がっくりと倒れ眠らせた。

ジェッダは直ぐに清掃員の腰を探り、マスターカードを抜くと素早くドアを閉め、非常階段から二階へ上がり、エレヴェーターホールで待つダンに上に行く合図をして開いたエレヴェーターに乗り込み五階へ向かった。

ジェッダは、ダンを五階のエレヴェーターホールに残して見張らせ、静かにイマルと翔のいる505号の部屋の前に行きダンがナイフを抜いた。

マスターカードでそっとドアを開けてダンを先に入れ、薄暗い部屋のベッドでぐっすり寝て盛り上がっている場所をジェッダが指で指し示すと、イマルが襲い掛かるように足を何かに掠めながらベッドに飛び乗り、振り上げたナイフを思い切り下ろした。

一瞬何の手応えも無いと感じた時、翔がドア脇のスイッチを押し、部屋が一気に明るくなった。

イマルが振り返ろうとした時、翔が持っていた果物ナイフの柄がイマルのこめかみに激しくヒットし崩れ落ちるようにベッドへ倒れ込んだ。

翔は投げると同時に腰に差して有った樫の棒を抜くと、入口に置いて有った黒いバッグを入る時に蹴飛ばし、前のめりになって吃驚した表情のジェッダへ頭上から思い切り振り下ろした。

ジェッダは持っていたナイフで慌てて受け止めたが翔の力強さと上段から落ちて来る樫のスピードでナイフが弾き飛ばされ、続いて樫がジェッタの腰を襲った。ジェッダは必死になって避け、一瞬手に触ったコップを翔へ投げつけた。

樫で弾かれたコップは大きな音を出して壁に砕け散り、コップを避けた翔を見て、ジェッダは振り返るや否やドアを引き開け、廊下へ飛び出した。

翔は部屋から逃げた男を追う事はせず、少し荒い息をしながら『賊』が出て行ったドアを見つめ、樫の棒に巻いた皮がナイフに当たって少し切れているが大きな傷が無い事を見て、改めて曾祖父が渡してくれたこの樫の棒に感謝した。

暫くするとドアがノックされチェーンをして開けるとガードマンが複数見え、外してドアを開けると三人のガードマンが飛び込んできた。ほぼ同時にマネージャーも駆けつけ部屋の中を見て呆然とし、「一体何事が!!」と言葉を飲み込んだ。