第一章 世界自然遺産の島「おがさわら」

四 亜熱帯の気候と生活  2 日本で一番早い元旦の「海開き」

小笠原諸島は、気候的には亜熱帯に位置し、年間の気温変化と日較差(一日の最高気温と最低気温の差)は共に小さく、亜熱帯海洋性気候に属し、四季温暖多湿で平均気温は約二三℃です。

年間の総降水量は、平均すると約一三〇〇㎜で、意外にも東京の約一六〇〇 ㎜よりやや少ないのです。こうした気候ですから、夏は海からの風が気持ち良く、島の皆さんはクーラーを設置していても使用しない人が多いようです。

また、元旦は、毎年の恒例行事として、来島する観光客の皆さんと一緒に日本で一番早い海開きが行われています。冬でも短パン・半袖という服装で過ごす人も少なくありません。しかし、気温の感じ方は人それぞれ違うこともあって、セーターの厚着姿の人もいたりして、全体として服装がばらばらな珍現象が発生することになります。

特に、二月と三月は、小笠原でも十五℃くらいまで気温が下がる日も多く、ダイビング以外泳ぐ人は稀です。それなのに、太陽が出ていると紫外線は予想以上に強く、短時間で肌は日焼けでピンク色に変わります。ヤケドと同じですから注意が必要です。

父島・前浜「正月元旦海開きの状況」

3 全ての生き物が懸命に命を継ぐ

次に小笠原の地形ですが、父島では「中央山」の南東に位置する父島最高峰(標高三二六メートル)、母島では「乳房山」(標高四六二・六メートル)を中心に峰々を造り、両島共に大部分が切り立った崖から紺碧の海に沈み込んでいます。

母島東面(乳房山と石門方面を望む)

特に、父島では東面から南面にかけて、それが顕著です。それは、「千尋岩(ちひろいわ)」と呼ばれる場所に代表されるように、荒々しい断崖絶壁が連続しており、上から恐る恐る覗き込むと紺碧の海に真っ逆さまに吸い込まれそうです。

小笠原の自然林は、父島・兄島の乾性低木林と母島の湿性高木林に代表されます。そして、地殻変動による隆起と火山活動による岩盤の上に島全体を覆う浅い表土は、太陽の照り返しにより岩石が著しく風化して赤く変色(ラテライト質)しています。

大陸と隔絶された孤島という環境、動・植物をはじめとする全ての生き物が、戦争という破壊行為を受けつつも、太古の昔からそれぞれの独自の進化を懸命に遂げつつ、あるものは固有種として、また、あるものは固有亜種として、現在に至っているのです。