第二章

中田たちは再びバスに乗って、ブッダガヤーの大塔の見えるところで降りた。この大菩提寺はブッダガヤーのマハボディ寺院の建造物群として、2002年、ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されている。

大塔の入口の広場は、露店等で賑わい、土産物店が連なり、アジアの巡礼者、観光客のほかに、僧侶の姿が目立った。チベットの僧侶が多く、彼等は一目で分かった。中田達は人混みの中を、人の流れに乗って大塔に向かった。大塔は高さ54m‌の四角錐である。

玄奘三蔵(602年―664年)が訪れた7世紀には、ほぼ現在と同じものが建っていたそうであるが、明治16年頃は僅かにその突端を地上に現していただけであったという。牛歩のような流れに乗って中へ入ってゆくと、正面に、8世紀から12世紀のものとされる輝く仏像が見えたが、中はひどい渋滞となっており、仏像に着くまでにバスの集合時間がきてしまいそうで、中田は諦めて入口で合掌してそこを出た。

大塔の西側に一本の菩提樹が聳えており、その下に金剛宝こんごうほうがある。縦140㎝程、横240㎝程の長方形の石板で、アショーカ王時代のものだそうである。ゴータマはここで吉祥草を敷いて、その上に坐して正覚を成就したという。

その場所に金剛宝座はつくられた。こここそ、仏教徒だけのものではなく、現生人類の最大の遺産ともいえるものである。その金剛宝座に近付けないのである、人がその回りに多すぎて。ゴータマ成道(覚り)の場所のたたずまいに浸りたくてツアーに参加しながら、叶わなかった。

ブッダガヤーで2013年、爆弾テロが起こる。2名のビルマ人、チベット仏教僧侶を含む5名が負傷した。バスに乗って、中田たちは大塔から直線距離で2㎞程にある、印度山日本寺に向かった。

その日はブッダガヤーに泊まった。ホテルの窓から外を見たが、一面の田園風景であった。

幻影が中田に入ってくる。幻影がゴータマの言葉となって語り始める。

「わたくしは遙かに輝く雪山を眺めていた。カピラヴァットゥで、小さい頃から、一人、時間を忘れて仰ぎ見た、あの雪山であった。わたくしは雪山に向かって歩きだしていた。すると不意に、怒ったような女の声が聞こえてきた。