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第一章

3 サカ

そうか、サカだからか。いつものようにあさるためにゴミ袋を開けた時、私の日記を発見したのかもしれない。そして持ち帰った。なぜ食料でもない私の日記をそうしたのかは、定かではない。『暗黒日記』などというオドロオドロしいタイトルに、興味でも持ったのだろうか。

確かに何度か本屋で彼を見かけたこともある。本屋にしたら迷惑だろうなと思ったものだが、サカはもしかしたらなかなかの読書家かもしれず、ゴミとして捨てられている本の類を持ち帰るクセでもあったのかもしれない。それで私の『暗黒日記』を、持ち帰ったのだろうか。

それでも疑問はまだ残る。なぜ日記を書いたのが私だと分かったのか。さすがに日記に住所氏名顔写真など載せていない。ヒミツの、という題にしたって、これが名字だとは普通分からないはず。

しかし内容から類推はできるかもしれない。

あてどもなく町をさまよっていた当時、やはり徘徊するサカとはよくすれ違うことがあった。日記には私のさまよいの様子がたびたび具体的に記されていることから、サカにしてみれば、(これはよくすれ違っていたアイツが書いた日記か?)と察しがついたことだろう。

けれどどうして今になって私に日記を返してきたのか、それが分からなかった。もし持っていたくないのなら、捨ててしまえばいいわけで。「落し物」とか「忘れ物」、とはどういうことなのだろう。私はゴミ袋に、日記を忘れたわけではもちろんない。

疑問は解けないまま、私は日記帳を持ち帰る他なかった。数奇な運命を辿り、などというと大袈裟かもしれないが、私の過去の日記が何年もの歳月を経た後、持ち主の元に戻ってきたのだ。

まるで探査機ハヤブサが、ミッションを終えて地球に帰還したかのように。そう思うと、ちょっと貴重なものに感じないでもなかった。かといって今更読む気にもならず、さりとて捨てるわけにもいかず、ただ手元に取っておいたのである。その時には思いも寄らないことだったけれど、サカから日記が戻ってきたことで、過去をもう一度生きるというチャレンジを、十年後の今、私はやることができている。

ゴミ袋をあさるサカを通り過ぎてほどなく、自転車を止めて振り返る。サカは次のゴミ袋の口を開けているところで、食料探しに余念がなかった。この暑さ、生ゴミはすぐに傷んでしまうだろう。

『 ……それにしてもよく腹を壊さないものだ。腐った物ばかり食べているから、もう耐性がついているのだろうか。しかも夏には生温かいもの、冬には冷たいものばかりと、逆のものしか口にできないなんて、悲劇だ。夏には冷たいもの、冬には温かいもの、これでなくてはぼくなど狂ってしまう。いや、現代人の誰もがそうだ。そう考えると、サカってすごい人間なのかもしれない。あれだけ毎日さまよっているのだから、もしかしたらものすごい思想、世界を変える哲学とか隠し持っていたりして。