【前回の記事を読む】「ごめんね、先生…」小学校教師の“教育概念”が変わった事件

第1章 「楽しさ」と「実感」がある授業のために…

1-4 教育とは──対話を重視してともに学ぶ

そうしたスタンスによる子どもたちとのやり取りの例を紹介しておきたいと思います。再び、〈1-2〉で登場した1年生とのやりとりの思い出です。

教師:あのね、ちょっと他の学年の道徳の時間に聴いた話なんだけどね。小学生の僕(男の子)が混雑している電車に乗っていたら、おじいさんが乗ってきて、目の前に立ったんだって。僕は席を譲ろうと思ったけれど、「どうぞ」って言う勇気が出なかったんだって。そうしたら、隣の席に座っていた中学生が「どうぞ」って言って席を譲ってね、おじいさんはとても喜んだっていうお話なんだ。僕はどうすればよかったのかな?

児童:あのね、勇気を出して「どうぞ」って言う、ってのが正解だと思うんだよね。でもね……。

教師:でも?

児童:言えないんだよ。

教師:いえないの? なんで? 他にもそういう人っているの?

(学級の 3 分の 1 くらいが挙手したので)そんなにいるの! 一体、どうして?

児童:僕ね、「どうぞ」って言って席を立ったことがあるんだ。でもね、「私は年寄りじゃないぞ!」って怒られて、怖かったんだ。

教師:なんと! そういう人って、他にもいるの? (やはり学級の3分の1くらいが挙手したので)そんなにいるんだ! それは、確かに、言いづらいよねぇ……。

児童:だから、(譲ってあげようと思って)黙って席を立ったこともあるよ。でも、そうしたら、他のおばちゃんが座っちゃったの。

教師:なんと、中年の女性が? うわあ、それは悔しかったのでは?

児童:ううん、いいの。その人は、座りたかったんだと思う。

怒られないですんだし。

教師:何だか、気を遣うね……。

児童:あのね、僕ね、自分が年を取ったら、素直に席を譲ってもらうようにするよ。

教師:どうして?

児童:だって、そうしないと、若い人が不安になっちゃうから。

教師:なんと、60年くらい先の自分のあるべき姿を描いているんだね、すごいな!

児童:僕ね、席を立ったら、ゲボ吐いた(筆者注:嘔吐)ことがある。親切にしようとしたら、かえって迷惑をかけちゃった。

教師:そういうときは、席は譲らなくてもいいんじゃないの?

若くても、つらいときもあるよね。

元気なお年寄りと、具合の悪い若者だったら、どっちが座るべきなんだろう。

児童:あのね、ヒットポイント(筆者注:ゲーム上の主人公等の体力メーター)の低い方が座ればいいのよ。私は普段は元気だから、多分、お年寄りよりもヒットポイントが高くて、立った方がいいの。

児童:でも、具合が悪くてヒットポイントがお年寄りよりも低いときは、子どもが座るの。

──まさか1年生が、ここまで深い話をするとはと驚いたのですが、私なりに気づいていることとしては、私が発問ではなく質問をするという意識をもっていることと関係があると考えています。