第三章 運命の人

何をお願いしているのだろうか。真剣に祈るミヨの姿。閉じた瞳に微かに揺れる唇。つい意識してしまう。

ミヨがゆっくり目蓋を開くと、二人は拝殿をあとにした。

「試験に合格できるようにって、ちゃんとお願いした?」
「もちろんです。先輩は何をお願いしたんですか?」

ミヨはにこりともせず黙っている。

「いいじゃないですか、教えてくださいよ」

ミヨはポケットからビターチョコを再び取り出し、一口分を口に入れてごまかしている。達也が口を尖らすのを見て、楽しんでいるようだ。

「次はおみくじね」

達也を背にしてミヨはスタスタと歩きはじめる。達也は困りながらも、ミヨの願いを想像するとなんだか楽しかった。

授与所は、破魔矢(はまや)や御守(おまも)り、御札(おふだ)を求める人たちでいっぱいだ。その中でもひときわ人気なのがおみくじだった。

「大吉がでますように」

達也とミヨは百円のおみくじを引いた。

「中吉か。ま、いい方なのかな。先輩はどうですか?」
「私は末吉ね。ささやかな幸せを感じられる一年であればいいわ。生きているだけで人は幸せですもの」

急にミヨがそわそわしはじめた。

「達也くん、ごめんなさい。ちょっと病院へ電話してくるわ。すぐ戻ってくるから」
「あ、ちょっ、先輩」

ミヨはそそくさと初詣客であふれる人混みの中へと消えていった。

「行っちゃった。なんだろ? 何かあったのかな?」

ミヨがいなくなった人混みの方へと目を向けていると、自分の名を呼ぶ聞き慣れた声がした。

「あ! 達也くん?」

声の方を見ると、晴れ着姿の結花と姉の実花の姿があった。

「あら、達也くん。明けましておめでとう」
「おめでとうございます、実花先輩」

達也が実花と新年のあいさつを交わす一方で、結花はなぜかもじもじしている。そんな妹の姿を見て実花の目が笑いはじめた。

「まさか達也くんも同じ日に来てるなんてねえ。ゆっ、かっ」

実花が右肘(ひじ)で結花をつつきながら言った。いじわるな口調で問いつめる実花に、結花が顔を赤らめている。

「達也くんのこともお願いしてきたわ。四月から後輩になりますようにって。結花もお願いごとしてきたのよね? 達也くんといっしょに合格できますようにって」

完全に小悪魔化した実花のいじわるトークに、結花はすっかりゆでだこ状態だ。

「だいじょうぶ? 結花。そんなに真っ赤な顔してると、たこ焼きの材料にされちゃうんじゃなあい?」
「ち、ち、ち、違う、違うもん。私はちゃんと落ち着いて、その……試験できますようにって。苦手な数学を……その」

※本記事は、2012年5月刊行の書籍『アザユキ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。