【前回の記事を読む】あまりにも面白い旅行プラン…出発すると「身体はフワリフワリと浮かび始めました」
パン屋さんの上は
休日に、私は、もう一度あの味と香りを楽しみたくなりコーヒー店に出掛けました。知る人ぞ知る、アフリカ原産のコーヒー豆『ケバオ』は、独特の苦味と酸味があり、香りは濃厚なバターのようです。駅を降りて緩やかな上り坂を真っすぐ歩くとパン屋さんの2階にコーヒー店が……
「あれ？」
「ない」
「パン屋さんの上には屋根しかない」
「もう少し先だったのかなあ」
と思いながらゆっくり歩いて探したのですが、コーヒー店は見つからず、いつの間にか、広い通りに出てしまいました。仕方ないので来た道を戻ることにしました。だらだらの下り坂を、今度は一軒一軒よく見て丁寧に探したのですが、やはり、見つかりませんでした。再び、パン屋さんの前で緑色のセーターを着た男の人に、コーヒー店のことを聞くと、
「ああ、その店なら、パン屋の2階に」
と言って、見上げて
「あれ？ ないね」
「消えちゃったよ」
と男の人も驚いていました。私は、コーヒーを飲むのを諦めて家に帰ったのですが、コーヒー店がなかったことに納得がいかず、タ方また、コーヒー店を探しに行くことにしました。すっかり暗くなった緩い坂道を歩いてパン屋さんの前に来ると、2階にコーヒー店が……
「あれ？」
「あった」
「不思議？」
私は、こんなこともあるんだと思いながら、お店に入ることにしました。狭い急な階段を昇ってドアを開けると、カウンターの中には丸い銀縁メガネをかけたマスターがいて、あいさつされました。窓側の席に座って、しばらくすると注文した『ケバオ』が出てきました。
マスターは、ココナッツに似た『キシヤ』という実から取れるミルクを入れて『キシヤケバオ』にして飲むと、もっと美味しくなると教えてくれました。コーヒーを堪能した後、帰り際、マスターにお昼の出来事を話すと、マスターは明治時代の古いパンフレットを見せてくれました。
「お客さん。この店は、戦後、人間以外のお客さんが、よく来るようになったんですよ」
と言いながら。
「お客さんが、来たようですね」
「いらっしゃいませ」
「やっぱり出た！」
