五年目の驚き

日本小児外科北海道地方会一〇〇回記念誌を全国へ向けて発送するため、二〇一九年三月に医学生アルバイトを頼みました。当日になり頼んでいた学生の体調が不良となり、かわりの女子医学生が来ることになりました。バイト時間になり、ふと見ると廊下をうろうろしている学生を発見しました。聞くと、心臓外科にアルバイトに来たと勘違いしていた学生でした。

仕事を始める前に、少ない時給のおまけとして彼女に宮本の書いた二冊の本を手渡しました。するとなぜかとても喜んでくれるのです。

不思議に思っていると、彼女曰く「宮本先生は覚えていらっしゃらないと思いますが……五年前に北見の高校で、先生がいらして行っていただいた授業を聞いたんです! 浪人しましたが、旭川医大を目指してがんばり、入学することができました。今日は心臓外科のバイトだと思っていたのに、宮本先生に会えるなんて……嬉しかったです!」

以下は五年前、二〇一四年二月二日の宮本のフェイスブックからです。

高校メディカル講座@北見北斗高校講義終了。

タイトルはキラキラネームならぬキラキラタイトル⁉

「メスよ輝け!─子ども達と共に病気と闘う─」

五十歳以上の方には漫画が思い浮かぶタイトルも高校生には新鮮だという医学部五年生のアドバイスを受けて……。

前半はナラティブというかストーリーテリングと言うべきか臨床のいろいろな場面を……。

後半はヒルシュスプルング病の百年以上に亘る術式の開発を高校生と話しながら……最後にその術式ビデオ……高校生の受けと理解度は直後の記述式アンケートで……とのことでまだ聞けず。

とりあえず帰りの汽車待ち時にご褒美……。

北見海鮮塩焼きそばとビール‼

写真はその時の講義での垂れ幕です。この講義は地域医療を支える人づくりプロジェクト事業の一環として成されました。北見北斗高校で一年から三年までの学生七十五人、他校からの学生十五人、先生たちを加え百人を超える聴衆でした。

 

そうか! 彼女はあのときの学生の一人だったんだ! 実はあのとき宮本には、外科医が高校生に話をすることの意義が解りませんでした。話も広げすぎたように思います。とはいえ彼女が五年前の講義をとてもよく覚えていることに感動しました。

さらにバイトが終わり患児用の宮本名刺を渡すと、「あっ、これ宮本先生の講義に出てきました‼」。おお、そうだった。この講義用にまとめた小児外科のショートストーリー十編は、その後発展して拙著一冊目『たたかうきみのうた』のたたき台になっていったのでした。

彼女は今頃家に帰りあの本を読んでいるでしょうか。本の中に次から次へと出てくるお話が、自分が高校の時に聞いた話が元になっていると知り、さぞかしびっくりしているのではないでしょうか。

宮本が高校生に講義したのはこの一回だけでしたが、その聴講生が医学生となり会えたことに驚きました。よく考えると、その時の聴講生のうち何人かは旭川医大の医学科や看護学科に入学しているのでしょうが、あれから五年たち、教育センターからは当の演者にそのようなことは伝えられていません。

とはいえ、現役医師が高校生や中学生、さらには小学生にだってお話しする意義はあるようです。命の大切さや医学の最前線など興味を持たせる話ができるように思います。

だがしかし、五年前の講義の後半でお話しした、ヒルシュスプルング病の百年以上に亘る術式開発の歴史、これは壮大ではありますが、複雑すぎたかな、と今になって反省しきりです。

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