第三章 運命の人

「高校二年生で準一級ってすごくないですか? それで得意ではないなんて」

達也の横で、ミヨは黙読し続けている。体は全く動かず、目だけが動いている。ミヨが読んでいる本をのぞいてみると、細かい文字がびっしりと綴られていた。

「うわ! 文字だらけだ。一体、何の本ですか?」
「科学者たちの過去の研究内容やその歴史についての文献よ。人の思いを具現化するような物を……この世で発明できないかと思ってね」

現実味を微塵も感じないミヨの話。だがミヨが冗談を言っている様子は全くない。それどころか、一文字たりとも読み逃すことのないように指で字を追っている。

「求めても得られないものを永遠に求め続ける……でもそれが生きるということ」

ミヨは真剣な表情というより、どこか鬼気迫る感じだ。

「先輩はやっぱりすごいですね。頭はいいし、大きな夢もあるし、それに」

つい、「きれいだし」と言葉を漏らしそうになった。ミヨはそんな達也にゆっくりと目を向け、首をかしげている。

「あ、いや別に。それにしても、僕は何を目指すべきなのかな……夢ってなんだろ」

腕を組み天井に目を向ける達也に、ミヨが問題集の答え合わせをうながした。ミヨにもらった赤いボールペンで快調に丸をつけていく。

「そういえばけっこう減ったな、インク」

途中で手を止め、達也がボールペンをまじまじと見る。ミヨにもらってから約半分を使っていた。

「成績が上がりはじめたのも、先輩にもらったこのペンを使いはじめてからなんですよね。不思議だな」

達也は目の高さに掲げ、いろいろな角度からボールペンを見ている。ミヨもインクが気になるのか、チラチラと視線を移している。

「もう入試まで時間がないから。焦りますよ」
「……そうね……時間ないわね」

ミヨは、達也の方を見ることもなく半ばうつむいている。

「本番の試験とインクがなくなるの、どっちが早いっすかね。あと二か月か。残りわずかだと思うと緊張するな」
「……残りわずか……そうね」

達也の答え合わせが落ち着くころ、ミヨが咳きこみはじめたため、二人は早めに図書館をあとにしたのだった。

※本記事は、2012年5月刊行の書籍『アザユキ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。