【前回の記事を読む】「ダイエットは自分との戦い」…変人ポーが語る「精神力」の大切さ…

第1章  思い通りの人生をデザインするための「人間力」

世の中は対人間?

翌朝から二人はプールでリラックスしていた。

変人ポーは日本人とは思われないその日焼けした身体に加えて鍛えられたたくましい肉体を持っている。一見、プロレスラーのようだ。ちなみにボクがこの中学生の当時、腕相撲を両手で挑んでもこの変人ポーにはとても敵わなかった。自然、ボクの変人ポーに対する畏怖心はこの歴然とした力の差からも来ていた。

変人ポーは注文したビールを持ってきた若いスタッフの娘に部屋付けのサインをしてチップを渡したあと、豪快に飲み干してからこんなことを言った。

「世の中の値段はすべて人件費だ」

ボクは初め理解できなかったがいつもの例え話を聞くと、つまりはこういうことである。たったいま変人ポーが飲み干したビールには、まず麦畑で栽培する農家の人件費、ビール工場で勤務する人の人件費、そのビール工場で使用される醸造設備を製造する工場の人件費、できたビールを入れる容器を製造する工場の人件費、そのビールを運ぶ配送業者の人件費、ビールを冷蔵保存するための冷蔵庫を製造する工場の人件費、それに携わる電気、水を供給する公共事業に携わる人たちやさっきビールを持ってきた若いスタッフの人件費……と、さまざまな人件費が凝縮している。

また、これはつまりこう言い換えることもできる、と前置きをしてから変人ポーはこうも言っていた。「この世の仕事はすべてがサービス業だ」

そのコストすべてが人件費だとしたら、もとを正せば全部サービス業だという考えだ。レストランは食べ物や雰囲気などを提供するサービス業、ホテルはニーズに合った宿泊などでもてなすサービス業、ミュージシャンは心地良い音楽を提供するサービス業、芸人はお笑いを始めとする娯楽などを提供するサービス業、土木や建築は快適な暮らしを提供するサービス業、広告代理店は企業の代わりに大々的に企画などを宣伝するサービス業、医者は患者の医療を診るサービス業。

「とらがいま行ってるスクールだってそうだ。我々はスクールの客に当たる。それだけではない。公立の学校のように国というクライアントからの教育方針に則り、客である子どもたちに教育というサービスを提供しているところもある」

さすがに話が飛躍してきたので、ボクはマンゴージュースをひと口して聞き返した。

「でも、働いたことがないボクでも、スクールの先生や道路で工事している人たちがサービス業じゃないことくらいわかるよ」

「これも本質の話だ」

出た、本質。変人ポーはよくこの〝本質〞という言葉を使った。

「どんな業種でも、何かしらの商品やサービスをお客さんに提供しているからこそ、仕事として存在しているという考え方だ。この場合のお客さんとは、個人や会社、その他団体や国という場合もあるがいまはそれは良い、ともかくどんな業種でもお客さんが必ずいて、商品やサービスを受けるお客さんがその対価としてお金を支払う。そして、これらの取引、例えばさっきのビールとお金とを物々交換するといった支払いがなされる現場には、常に人間が存在していたんだ。いまはもう、そうではないことも多いけどね」

「それはそうだよ。ネットショップでオンライン決済なんて普通だよ」

「ははは、そうだったな。でも父さんがとらくらいのときはまだそんなことは極限られたものしかなかったんだ。電車乗るのも駅員さんが全員のきっぷを一枚一枚切っていたんだから。それはそうと、こんな時代だからこそ必要不可欠な能力がある。それが、人間力だ

人間力。この世に生まれて長らく変人ポーと話してきたけど、おそらくはこの時初めて出てきたキーワードであった。この人間力こそが、変人ポーの哲学そのもので、変人ポーがボクに3歳の頃から合宿に連れ出してまで伝えたいことだった。そしてギラギラした太陽の眩い日差しは容赦なく降り注いでいる。猛暑である。