二〇一九年十二月二十七日

出勤前、万里絵は管理人室へ顔を出し、一月五日まで休暇期間の全食事をキャンセルした。

「木賊は、実家に戻るのか、あっちはすごい雪だろう」

出社すると海外旅行組の西木部長が声をかけた。

「ええ、まあ、部長はハワイでしたっけ? いいですよねえ」

実家には一度顔を出そうと思ってはいたが、まだ新幹線の乗車券の予約を取っていない。

昼休みに母親に電話をした。

「えっ、帰ってこないの?」

長期の休みなので、すっかり帰省するものだと思っていたらしい。

「ちょっと旅行をすることにしたの」

「一人で?」

万里絵は返事に詰まった。

「いえ、友だちと」

「あら」

しばらくの沈黙があった。

「ずっと、なの?」

「そう」

「予定があったのなら仕方がないわね。お父さんも芽里衣もがっかりするわ。日をずらして、成人式の連休のあたりでも来てちょうだい」

母は誰とどこへ行くとか追及しないまま、語尾に含みを残して、電話を切った。第一に万里絵に旅行を共にする友人がいるなんて思ってもいないのではないか。男の人と一緒だと勘ぐられたかもしれない。なにも言わないのは、それでもいいと思っているからだろう。

気を取り直して、午前中の郵便物で届いた出版希望の原稿を整理し、六十代の女性が書いた「わたしの半世紀」を読んだ。

パソコンの入力練習かと思われるような内容で、「退屈で冗漫」過ぎて辟易したが、とりあえず最後まで読みとおし、独自で作成している万里絵シートのメモ欄に「ストーリーにメリハリがほしいところ」とコメントを書いた。何作か読んでから就業終了時間を機に、今年の業務の全てを終えた。

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