彼女は、「だんだん垣根がなくなくなってくように感じる」と言ってくれました。こんな初歩的な話でも、伝えていく事の必要性を感じます。年に数回、視覚障害者と共に学校へ出前授業に行きます。

そんな時、生徒たちにアイマスクをして歩く体験をさせてほしいと先生から頼まれる事がありますが、現在私が理事長をしているNPO法人では、小中学校でのアイマスク体験をお勧めしていません。それをしても、子どもたちには怖いという印象ばかりが残り、「あんなに怖い中で毎日を過ごしているのは可哀想だ」と思ってしまう心配があるからです。

障害がある事で、可哀想だと思われる事に反発する当事者や、そのご家族はとても多いものです。障害があるという事は、何か不便があるという事ですが、周りの人にぜひその不便を知ってもらい、一つひとつ不便を減らすための協力はしてほしいけれど、可哀想だとか気の毒に思ってほしいのではなく、反対に大袈裟に誉めてほしいわけでも無いと言います。

この気持ち、もし自分だったら、と考えるとおわかりいただけるのではないかと思います。

大人向けの研修で視覚障害のある講師が、受講者の想像力を鍛えるためのクイズを考えました。

質問「弱視の僕が、一番困るのはどれでしょう?」

1.キス

2.トイレ

3.署名

4.カラオケ

5.駅で切符を買う事

どんな事で困るかを想像してもらう事が目的なので、答えはどれでも良かったのですが、セミナー講師の答えは2のトイレでした。

理由は、

1.キス 今は不要

2.トイレ 鍵の場所と水の流し方をとにかく教えてほしい

3.署名 定規などで枠を作ってくれれば、以前は見えていたから書ける

4.カラオケ 横で少し早めに歌詞を教えてくれれば大丈夫

5.点字が読めないので料金表に点字があってもわからないが、交通系ICカードがあるから大丈夫

という回答でした。人それぞれでしょうけれど。

トイレでは、まず鍵の位置と形状、そしてトイレットペーパーの位置や流す方法をお伝えする事が大切です。誰だって自分の排泄物なんて他人に見られたくはありません。

また、流す方法を探るために、トイレ内のあちらこちらを触りたくはないでしょう。今は便座周りの設備の配置にJIS規格がありますが、古いトイレは配置がバラバラです。流す装置も、フラッシュレバーやスイッチ式やセンサー式など、多くの種類が混在しています。

水を流す装置と「緊急通報装置」を間違えて押してしまう人も多いので、ここは大切な抑えどころです。そしてトイレには未だに、スリッパに履き替えなければならない所や和式便器などがあるので、視覚障害者にはかなりの難所のようです。