「ごめん。ごめん。ここから先は?」吾郷は作り笑顔で高取をなだめる。

「実は、アゴのとこの表部長だよ」

「表部長がどうした?」

吾郷が身を乗りだす。

「うん……」

高取によると、表は山北開発の話が佐分利市長からでたとき、当初は長谷とタイアップして反対していた。ところが、ある時から急に態度を変えて賛成に回ったという。

「あの二人は同期で、もともと仲がよかったんだ。それがある時から急に(てのひら)返しさ。長谷さんは完全に梯子(はしご)をはずされた。それと……」

高取は吾郷の耳元に顔を近づけた。吾郷が「おいおい。トリの自宅だろ」と呆れるのもかまわず彼は耳元で(ささや)いた。

「表部長の長男が新設医大!」と吾郷が声をあげ、高取はあわてて人差し指を口に立てて、シッ、と制しつつ「態度を変えたのは、ちょうど合格したタイミングなんだ」とつぶやいた。

吾郷は佐木とのやり取りを思い浮かべ、話がつながってきた気がした。

「実は……」

吾郷は今日の佐木とのやり取りを話した。

「ああ。山北開発がマル部ってのは周知のことだよ」

「やっぱりそうか。これは完全に匂うな」

高取が真顔になった。

「アゴ。これだけは言っておく。山北の件にはあまり首を突っ込むな」

彼は正義感の強い吾郷を心配した。

「うん、わかった。ところで長谷さんは今どうしてる?」

「辞めてからは、自宅も売り払って行方知れずだ」

「……」

ため息を漏らしたとき、里美の寝息が聞こえてきた。いつのまにかソファで寝入っている。

「里美も疲れてるな」

「学校大変なの?」

「うん。給料は安いけど仕事は正教員と変わらない。それにとんでもないモンスターマザーがいるんだよ」

「そうなのか」

「その黒岩産業の会長夫人だよ。あ、これも秘密ね」

【前回の記事を読む】「山北の件には首を突っ込むな」…開発計画の裏で何が起こっていたのか?