ママは若くして結婚した。ところがその旦那が何度も事業に失敗、終いには酒に溺れ、肝硬変で亡くしている。それ以来結婚はしていない。

有名な話が有る。「私はイングランドと結婚しているのです」と言って、生涯独身を貫いたエリザベス一世だ。当時のイギリスは決して大国では無く、いわばまだ二流国だった。彼女は列強各国の君主達の求婚を逆手に取り、自国の政治を有利に進める道具とした。

国だろうが飲み屋だろうが変わらない。ママや女の子目当てで店に来る客も多い。それなら亭主持ちより独身の方が良いに決まっている。だから夜の仕事をしている人は独身が多いのかな、そんな気もする。ママは強い意志と自覚が有った。却って中途半端は身を持ち崩す。そんな女性を沢山見てきたし、知っている。

「浮気、浮気なんかさせなかったわ。うちの亭主も可愛い所が有ったのよ。飲んでる店に電話して、『この唐変木』って、この一言で飛んで帰ってきたわ。時々服やズボンが汚れてる事があってね。聞いたら、あんまり焦って帰ってきたんで、転んじゃったんだって。そうそう、汚れた背広を脱がそうと思ったら、他人の背広だったって事もあったわ。それだけ必死で帰って来たと思うと、可愛くて怒れなかったわ」

「ふう~ん、ママにぞっこんだったのかな。それともママがよっぽど怖かったのかねぇ。飛んで帰ってきて、背広が汚れ……てたのに、家に帰るまで……他人の背広だって気が……つか……ない……。ママがそれを見つけ、……あっ、ああ~、と、解けた。分かった。分かったよママ、ありがと。やった。今日はゆっくり飲めるぞ、ママもう一杯」

「何か知らないけど、おめでと」

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